■2002/04/05 (金) 緊急対応型ワークシェアリングの応用

 今朝の日経新聞が、社説で「ワークシェアの検討に現実的な視点を」と訴え
ていました。「依然として言葉が先行しており、地に足をつけた議論が必要」
と述べていますが、まことにそのとおりだろうと思います。
 社説は「肝心の効果は不確かなまま」「緊急対応型はマクロ的に見た場合、
雇用の維持・創出が実際にどの程度見込めるのかはっきりしない」と指摘しま
す。たしかに緊急対応型が雇用を創出しないことは今回の政労使合意でも確認
されています。雇用の維持に関しては、これはもはや「どの程度見込めるのか」
という次元の問題ではないでしょう。さらに「事業の撤退などで人員削減を避
けられない企業はできない」「ホワイトカラーの多くの職種では、時間単位で
成果をはかれないので時短がやりにくい」「余剰人員を極力減らし、パートタ
イマーや外注をかなり切ってから実施する傾向がある」と述べています。よほ
ど緊急対応型が気に入らないようですが、ホワイトカラーについてはまさにゴ
モットモで、こちらは主に「時短なしの賃下げ」になるのでしょう。今回それ
を「ワークシェアリングとは呼ばない」と合意したわけですが、名称の如何に
かかわらず行なわれるものは行なわれるでしょう。手続き論としてパートの雇
い止めや外注の打ち切りが先行することも事実ですが、これはそもそもこれら
有期契約は操業の変動に対する柔軟性確保のために活用している部分も大きい
わけですからむしろ当然のことです。それをどう評価するかは別として、緊急
対応型におのずと限界があることは政労使ともに認識している事実です。
 気になるのは、実はこういうことを言う人はかなり多いのですが「人員削減
を避けられない企業はできない」と言っていることです。もちろん、あまりに
業績悪化が激しくてワークシェアリングどころではない企業もあるでしょう。
しかし、衰退産業、不採算部門であっても、いきなりバッサリと切り捨てるこ
とが得策でないと判断すれば、悪影響がなるべく出ないように漸進的に撤退し
てソフトランディングさせる、言葉は悪いですが「安楽死」させるのが賢明だ
という場面も多いだろうと思います。そういう場合には、ワークシェアリング
を活用して苦痛を緩和しながら、自然減や配置転換を進めて徐々に撤退するこ
とも十分考えられると思います。緊急対応型には限界もありますが、応用範囲
もまたけっこう広いのではないかと思います。

■2002/04/04 (木) 埼玉県警、職員の勤務評定を開示

 桶川ストーカー殺人事件、覚せい剤もみ消し事件、飲酒運転事故不申告事件、
泥酔者放置死亡事件など、不祥事のあいつぐ埼玉県警ですが、県民の信頼回復
には職員の意欲の向上が不可欠ということで、勤務評定の一部を本人に開示す
る制度を導入したのだそうです。
 警察の人事制度は、一般的に、基本的には昇任試験に合格することで昇任し
ていくわけですが、目立った功績(大事件の解決、大物の逮捕、オリンピック
での入賞など)があった場合にはいわゆる「特進」での昇任がありますし、初
級管理職を中心として勤務評定をもとにした年功的な昇任も見られるとのこと
です。埼玉県警の評価制度は、「能力評定」と「実績評定」の二つがあり、今
回開示をはじめたのはそのうち「実績評定」の方だということです。実績評定
は、目標の達成度に加えて、仕事への取り組みぶりや県民からの相談への対応
ぶりなどといった情意・プロセス評価も織り込んで上司が評価しているという
ことで、目標は上司が設定しますが、今回の開示にあわせて、幹部クラスにつ
いては目標設定にも本人がかかわる制度に変更したそうです。さらに、実績評
定を勤勉手当の加算や昇任・昇給に明確に結び付けるということですから、こ
れはかなり強力なインセンティブであると言っていいでしょう。ちなみに、能
力評定の方は職務遂行能力を評価するもので、こちらは「開示すると本人から
不満が出やすい」とのことで開示しないとのこと。
 なかなか意欲的な人事制度だという感じを受けますが、民間の大勢とはまた
異なった特徴もあって面白いところです。昇任試験合格による昇任という透明
度の高い制度を導入している民間企業はまだ少数でしょう。その一方で、単発
の業績に対する報償として昇進昇格させるというのは民間企業ではあまり見ら
れません。同様に、実績評定についても、民間企業であればおそらくこれは賞
与に反映させ、昇進昇格には直接的には結び付けないのではないでしょうか。
勤勉手当は一種の賞与に近い性格も持っているだろうとは思いますが。
 もっとも、実績評定にこれほど大きなインセンティブをつけたということは、
勤務態度の改善、県民との応接の改善によって信頼回復をはかることが非常に
重要な課題として認識されていることの反映かも知れません。であれば、なか
なか戦略的な人事管理だと言えるかも知れません。

■2002/04/03 (水) 新年度に着実な進歩

 新年度ということで、ペイオフ解禁をはじめとして4月1日からいろいろな
制度が変わりました。労働分野では、改正育児・介護休業法が施行され、小学
校就学前の子どもの看護休暇が努力義務ながら制度化されたほか、育休・介休
を理由とした不利益取り扱いが禁止されました。
 看護休暇については努力義務ではありますが、改正法は国の役割としてその
普及促進を定めていますので、並の努力義務ではなく、行政指導も活発に行な
われることが予想されます。育休、介休が義務化され、さらに看護休暇と、ど
れだけ休みを作ればいいのかという感もなきにしもあらずですし、それより前
に年次有給休暇の完全取得ではないかという気もしますが、いずれにしても必
要な休みが取れるようにしていくことは大切には違いないでしょう。
 不利益取り扱いも、筋としてははっきり禁止すべきところでしょうが、現実
の運用にあたっては微妙な問題がありそうです。先日示された指針では、不利
益取り扱いとして解雇、退職、非正規社員への変更、自宅待機のほか、降格や
減給・賞与の減額にとどまらず、「不利益な配置転換」「もっぱら雑務に就か
せるなど就業環境を害する」ことまで含むとされています。とはいえ、休務し
たことで現実に成果や貢献が低下したのであれば、それは適正に処遇に反映す
べきものであることも当然です。休務の有無にかかわらず、成果や貢献を適切
に判断し処遇に反映する合理的なしくみを持つことが必要となりそうです。
 もう一つ、意外に働く人にとってメリットがあると思われるのが、従来本人
が市町村に対して行なっていた3号被保険者の手続きが、事業主から社会保険
庁に対して行なうことに変更になったことです。これは機関委任事務の見直し
ということで変更されたのだと思いますが、これまでは退職にともなう3号被
保険者の手続きを忘れるなどして、年金額が減少したり、最悪の場合無年金に
なるなどのケースがかなり発生していました。その点、退職時に企業がその他
の手続き(たくさんあります)とともに実施すれば、手続き忘れなどはなくな
ることが期待できます。
 ペイオフ解禁のような派手な変更ではありませんが、大きくなくとも確実な
進歩だろうと思います。

■2002/04/02 (火) 税制改革の検討課題

 税制改革論議が盛り上がっているようです。政府の経済財政諮問会議でもこ
の問題が取り上げられ、3月29日の会議では「公平・中立・簡素」にかわる
理念として「公正・活力・簡素」が打ち出されたそうです。
 この会議の提出資料が経済財政諮問会議ホームページで公開されましたので
見てみますと、「公平・中立・簡素」をやめてしまったというわけではなく、
これを再定義して「公正・活力・簡素」と理解する、という面倒な位置づけが
されています。簡素は従来の財務省路線と同じですが、前の二つについては、
・「公平」:自立と再挑戦を支えるセーフティネットを構築した上で、「公正」
を追求し、“結果の平等”より“機会の平等”を重視する。
・「中立」:人々や企業の選択を歪めず、経済社会の「活力」を最大限発揮さ
せる。
 ということなのだそうです。公平、平等、公正と、似たことばが乱立してい
て混乱を覚えますが、公平結果の平等、公正機会の平等と単純に受け止め
るとして、いったい税制において「機会の平等を重視する」というのはどうい
うことなのでしょう?「結果の平等」というのは、税制の所得再分配機能との
関係で理解できますが、所得再分配がどうあれ、「機会の平等」とは無関係な
ように思われます。
 「中立」が「人々や企業の選択を歪めず」というのはわかりますが、それで
「『活力』を最大限発揮させる」というのはいささか理解が困難です。そもそ
も、中立なら活力が発揮されるならわざわざ言い換えるまでもないでしょう。
「税収『中立』」か「減税先行」か、という別の議論と混線しているのではな
いでしょうか?
 私は労務屋なので税のことはあまりわからないのですが、素人目に見ても、
「格差拡大が活力につながる」という単細胞な発想が本当に妥当なのかは疑問
に思われます。格差を縮小することが活力を生む部分も無視できないのではな
いでしょうか。結果の平等と機会の平等をまったくトレードオフだと考えるの
ではなく、可能な限り両立させる努力も必要なように思います。

■2002/04/01 (月) 市場価値評価は何のため

 今朝の日経新聞の報道によると、富士ゼロックスは外部の人材ビジネス業者
やコンサルを利用して全社員の「市場評価」を行なっているそうです。中には
市場価値が現実の年俸の半分という例もあるとか。
 もちろん、現実の年俸は「富士ゼロックスにとっては価値が高いが、外部で
は価値がない」技能についても支払われているので、市場価値が年俸を下回る
のはむしろ当然です。市場価値が低くても社内価値が非常に高いということも
普通に起こることでしょう。
 それはそれとして、この「市場評価」の目的が何なのか、ちょっと不思議に
思われます。報道では「組織の活性化」「人材の育成」が目的だと言っていま
すが、であれば基本的には能力の高い従業員には会社に残ってもらいたいとい
うことでしょう。そういう意味では「あなたの市場価値はこれくらいで、今の
年俸よりかなり低いから、会社に残った方が有利ですよ」というメッセージを
出すことは理解できます。評価された市場価値をもとに年俸を増減することは
しないそうですし、「社内労働市場」の整備を目指すとの方針もあるそうです
から、一応話はあっています。
 ところが、報道されている会社の見解は「社外でも通用する価値を持っても
らう」となっています。「社員に自覚を持たせ自己研鑽につなげる」のだそう
です。市場価値を高めることを奨励するということは、いずれ外部に出て行く
ことを奨励していることになりますから、優秀な社員を手元に残すという考え
方とは矛盾します。そもそも、「自己研鑽につなげる」ことが「人材の育成」
だというのもいささか無理のある理屈のように思われます。
 まあ、あるいは、残したい社員には前者、出て行ってほしい社員には後者の
理屈を適用するということかも知れません。富士ゼロックスはすべてのポスト
や業務を職務分析して厳密に定義し、成果主義を徹底しているそうですから、
評価の納得性を高めるために、外部の専門家の意見も援用するという意図もあ
るのでしょう。
 ときにこの記事にはコンサルのコメントがついているのですが、商売むきだ
しのバカコメントで笑わせてくれます。まあ、コンサルとしても聞かれればほ
かに答えようもないわけで、これは聞くほうがどうかしているという感じです。

                 






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