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■2002/05/24 (金) これで気分が変わらないか 高橋伸夫先生の「やさしい経済学」、今日は年俸制に関する解説でした。 それによると、年俸制を導入する企業には大別二つのタイプがあるというこ とで、第一がまだ賃金制度の整備されていない新興企業、第二が人件費抑制が 必要な企業、とのことでした。かなり乱暴な分類なので、わが社は違うぞとい う企業も多いのではないかと思いますが、主たる目的が動機づけだという企業 であっても、その背後にはいくらかは人件費抑制の意図が働いているでしょう から、なかなか実態に合ったタイプ分けであるように思われます。 さて、高橋氏はその中で、「人件費切り下げを正当化するための年俸制」に ついて批判しています。要するに、「年俸制とは働きに応じて年俸を決めるの であり、あなたは働きが悪いから年俸を下げます」と一方的に年俸を下げ、経 営責任の明確化や労使交渉、理解活動などの手続きを回避するのは言語道断で ある、というわけです。まあ、こんな露骨なケースは滅多にはない(と信じた い)でしょうが、より巧妙に「自立、自助、自己責任」とか「株主重視」とか いうヘリクツをつけて同様の策動を行なう向きは少なくありません。 これに対して高橋氏は、「『経営が苦しく賃金を下げざるを得なくなった。 経営者側にも責任がある。この苦境をともにしのいで一緒に頑張ろう』と言わ れた方がどんなに潔いことか」と述べています。まことにそのとおりで、実際 それをわかっている経営者が、十分な説明を尽くした上で、時限的に全社一律 の賃金カットなどに踏み切っているわけです。緊急対応型ワークシェアリング もその延長線上で理解できるでしょう。 経団連の今井会長の退任会見が昨日行なわれたそうです。今井氏が卓抜した リーダーとして活躍されたことは事実です。その一方、今井氏のキャラクター や、リーダーとして極論を述べる必要があったことなどによるのでしょうが、 自己責任原則やリストラなどについて原則論を強く述べられることで、残念な がら結果として国民の不安感をあおってしまったことも否定できません。 松原隆一郎氏などが指摘するように、消費行動、ひいては景気動向も、人間 のやることである以上はかなりの程度「気分」「雰囲気」に引っ張られます。 今井氏の退場によって「気分」が変わり、景気が上向くことを期待したいもの です。 ■2002/05/23 (木) 実は多い成果主義をやめたい企業 「ぬるま湯的経営の研究」「できる社員は『やり過ごす』」など、日本企業 の組織管理の実態、その特徴と功罪に鋭く迫った研究成果を発表している東京 大学経済学部教授の高橋伸夫先生が、今日から日経の「やさしい経済学」の連 載をスタートさせました。日経の論調とは合わない先生のはずですが、これは 後日別途反論の連載も掲載してバランスをとろうということかも知れません。 それはそれとして、初回の冒頭から「実は成果主義をやめたい」という企業 の実例が出てきます。「何社もの」企業で「実は失敗だった」と感じているの だそうです。とはいえ、鳴り物入りで導入した制度をそうそう簡単に元に戻す などと言うわけにもいかず、せめて別の名前の新しいシステムに変えたことに して成果主義をやめたいと思っていると。そしてその理由は、要するに成果主 義による評価の方が、従来の評価より結果として「納得のいかない」ものにな ってしまっている、ということのようです。 いやはや、いきなりきつい指摘ですが、しかし実際問題そうなんじゃないか という気がします。 さて、これはつまるところ評価方法の問題ですから、現在の一般的な論調と しては「納得が得られるように成果評価の方法を改善していけばいいではない か」というのが主流かも知れません。少なくとも、声の大きいコンサルやマス コミなどはこの方向でしょう。それはなにも成果主義に限らず、能力評価につ いても「客観基準」で評価したい、という願望が強いわけです。 しかし、高橋氏はこの思い込みに疑問を呈します。本当に「客観的に」評価 しなければならないのだろうか、と。実際、「成果主義」に評価方法を変更し てみたところ、実は従来の評価方法の方が、仮に客観的ではないにしても、大 方の納得のいく評価ができていたということが多々起きているではないかと。 もちろん、業務と無関係のことを理由に恣意的な評価を行なうことは論外で すが、そうでなければ、それなりに複数の上司によって評価され、昇進昇格な どでそれなりにその結果が見えるという従来型の評価は、実はかなり納得性の 高いものであるのかも知れません。差のつき方の大きさに応じて、面接制度な どで納得性を高める努力を行なうといった取り組みがむしろ重要なのではない かという気がします。 ■2002/05/22 (水) 失業給付、さらに引き下げか 先週金曜日の日経新聞で、厚生労働省が失業給付について高額層は削減する ことを検討しているとの記事が掲載されました。現状の失業給付の金額は、離 職直前の賃金の日当たり額を基準として計算されており、賃金日額4250円以下 はその8割、10280円以上は6割で、その中間は段階的に割合が下がるように なっていて、上限額(年齢によって異なるが、45歳以上で賃金日額17840円 に対して失業給付10704円)で頭打ちになることとされています。今回検討さ れているのは、基本的な枠組みは現状のまま、6割ではなく5割まで下がりつ づけるようにしよう、ということのようです。つまり、賃金日額が10280円以 上の人については、失業給付が現状より減額されるわけです。 これについて厚生労働省は、「中高年の再就職促進のため」という説明をし ていますが、表立って言わないにしても、厳しくなりつつある財源対策である ことは言うまでもないでしょう。もちろん、給付額の単価を抑制した上に、再 就職が促進されて給付期間も短縮されれば、財源の面でも一石二鳥ということ になるので、それはそれで大いにけっこうな話です。 実際、中高年は賃金水準も高いことから失業給付も高く、生活に困る程度が 比較的大きくないことから、職探しが長くなりがちだというのは納得できる理 屈です。また、中高年ほど再就職したときの減収幅が大きく、平均で2〜3割 の収入ダウンになるそうですから、再就職後の賃金が失業給付以下という「逆 転現象」も起こりやすくなっているかも知れません。 とはいえ、元が高いだけに、2割カットされてもそれなりに高い水準が維持 され、生活に困る程度もそれほど大きくはないという見方もできそうです。ま た、失業給付が再就職を抑制するのは、金額の多寡よりむしろ「もらえるもの は目一杯もらって」という要因の方が大きいと思われますので、はたして支給 率の10%引き下げ支給額の約2割減がどれだけ「早期の」再就職を促進す るかは疑問があるようにも思われます。 それにしても、財源がないということで昨年4月から給付の抑制や保険料の 引き上げを行なったにもかかわらず、早くも財源問題が復活しているというの は、見通しの甘さもさることながら、雇用失業情勢の深刻さを示すものだと言 えそうです。 ■2002/05/21 (火) 「新卒者定期採用廃止」の謎 すこし以前の日経新聞に、富山県の工具機械メーカー不二越が、2002年度 (2003年春入社)の採用から新卒採用を廃止するという記事が掲載されていま した。通年採用に一本化、「商品開発や営業など」即戦力人材の確保を進める のだそうです。 その時はふうんと思って読み流していたのですが、きのうたまたま不二越の ホームページを見ていたところ、あれ?トップページの「トピックス」に 「2003年度の定期採用についてはエントリーを終了いたしました。」との記載 があるではありませんか。「人材募集」のページに進んでみると、「定期採用 情報 2003年 3月に大学院、大学、高専を卒業される方を対象としています。」 「エントリー エントリー受付は終了いたしました。」となっています。これ はどう考えても2002年度の新卒採用を実施した(している)ということでしょ う。通年採用の方もロボット設計と海外業務で「商品開発や営業など」は影も 形もありません。さらに、ごていねいに「人事部からのメッセージ」というペ ージでは、「若いうちは、とくに基礎となる素養を身につけてからは、常に思 考し、実行し、フォローするプロセスを組み込んで、OJT…を基本に進めて いきます。」とまで書かれています。これが新卒を念頭においていることは明 らかです。もちろん、来年からは変わるということなのかも知れませんが、そ れにしてもここまでやって来年から180度転換という無節操なことはしない でしょう。 これらから想像されるのは、不二越としてはおそらく人事制度において「新 卒」と「中途」の区分をなくし、これまで以上に中途採用の活用をはかる方向 性を示した、ということでしょう。それを日経新聞が誤解したか曲解したかし てこうした報道になったのではないでしょうか。普通に考えて、いかに失業が 多いと言っても専門技術者は不足しているわけですし、とりわけ不二越のよう なニッチな分野での高度なテクノロジーを売り物にする会社で「即戦力」にな る技術者ともなれば、ライバル会社から引き抜くくらいでなければ外部から調 達することは無理でしょう。 少なくとも、「2002年度採用から新卒定期採用を廃止」は明らかな誤りです。 これで来年以降の不二越の新卒採用に悪影響が出るかも知れません。日経の無 責任な報道姿勢は早急に改めてほしいものです。 ■2002/05/20 (月) 独金属産業の労使紛争が解決 先週は出張のため「吐息の日々」をお休みしましたが、普段はネタに苦しむ ことの多いこの日誌も、さすがに一週間も休むとけっこうネタがたまっていた りします。何から行くか迷うところですが、コラムでも取り上げたドイツの金 属労組の昇給交渉が決着したそうですので、まずはこれを書きたいと思います。 この紛争、13日にはついに首都ベルリンで70年ぶりのストライキという ところまで激化しました。ただ、今回労組はストライキを行なう職場や地域を 日々変更する「フレキシブル闘争」という新戦術を採用したため、産業に与え る影響は懸念されたほどのものではなかったのですが、しかし効果はなかなか のものがあったようです。 15日には労使交渉が再開され、結果としては今年(正確にはこの6月から 来年5月)の賃上げは労組が最低ラインとする4.0%とする一方、来年(正 確には6月から12月までの半年間)の賃上げは3.1%とする、という回答 で打開が図られました。交渉が続いた4、5月は賃上げの対象とはせず、若干 の一時金を支払うということで、通常は4月から2年間の協定となることを考 えるとかなり変則的な回答ですが、一応なんとか双方が折れ合うことができる 妥協案ということのようです。もっとも、旧東ドイツ地域の一部では、経済の 状況を反映して、経営サイドが「これでも高すぎる」として独自交渉を求める 動きもあるようです。 ドイツ国内、および欧州では、スト長期化による経済の本格的なダメージを 避けられたことにとりあえず安堵する一方で、欧州中銀などを中心にインフレ を懸念する声も出ているそうです。これも予想された反応ですが、今回の結果 が経済にどのような影響を与え、結果として正解だったのか否かは、これから の成り行きにかかっているといえそうです。 いずれにしても、今回は過去2年の低賃上げの不満が組合員に積み上がって いたこともあり、労組としても頑張らざるを得ない状況だったといえるでしょ う。フレキシブル戦略も、大きな混乱を招いて労組が非難されるという事態を 避けながら経営にプレッシャーをかけるという意味で効果的だったといえそう です。「痛み分け」との評価が多いそうですが、労組に一定の成果があったと 見るべきではないかと思います。 /bear.jpg |