■2004/06/11 (金) 効果はともかく意味はある

 きのうまでの3回、いずれもすばらしい論考が連載されてきた日経経済教室の「働くということ−活力生む知恵」の特集ですが、残念ながら今回で最終回となってしまいました。今回は企業で働く人ではなく、仕事のない若者に関する提言となっています。
 提案の内容は、雇用保険制度の教育訓練給付の対象とならない若年失業者に対して、「若者向け訓練バウチャー」制度を創設し、自己選択による教育訓練を行わせるべきだ、というものです。過去の施策や海外の事例などの反省をふまえて、よく考えられた提案となっているように思われます。
 もっとも、従来の教育訓練給付金制度があまり効果を上げていないのと同様、この制度も即座に目に見えた成果が出ることは期待できないかもしれません。いかに教育訓練を受けたところで、労働需要がなければ就職にはつながらないからです。ただ、このところ労働需給はかなり改善しつつありますので、今後人手不足基調になったときに円滑に就労が進むよう、即効性はなくともこうした手立てを打っておくことの意味はあるでしょう。なにより、やることがなくてヒマにしていると、どうしても「小人閑居して不全を為す」ということになりがちなので、それを防ぐだけでも意味はあると思います。
 とはいえ、この提案は「一般財源を投入」というところが現実には最大の弱点になるでしょう。もちろん、雇用保険料を払っていない人に雇用保険から支出するわけにはいかないので、致し方のないところではありますが、現下の財政状況ではこれに一般財源がつくことはなかなか期待しにくいように思います。

■2004/06/10 (木) 信頼が基盤

 今朝の日経「経済教室」も、たいへん興味深いものでした。中央大学の佐久間賢教授による「上司・部下関係の再構築を」というもので、その内容は日本の優良企業は日本企業一般に比較して上司と部下の信頼関係が高い、ということを実証的に明らかにしたものです。さらに、企業一般を日米で比較すると明らかに日本のほうが信頼関係が高く、昨今の米国的モデルの導入に疑問を呈しています。そして、信頼関係の源泉となるのが「人間尊重」の理念にもとづいて安心して働ける職場環境である、と述べています。これはまさに、私たち人事担当者の多くの信念であり、それが計量的に裏付けられたことは非常に心強いものがあります。
 論考はなぜか、長期雇用慣行には触れられていません。これはおそらく、文中でも強調されているとおり、「日給制の作業者」についても上司と部下の信頼関係の構築は可能である、ということから、あえて触れなかったものなのでしょう。とはいえ、やはり日本における上司と部下の信頼関係は、長期雇用に支えられている部分が大きいのではないでしょうか。上司が部下を育てた結果、上司がその地位をとってかわられ、職を失うとすれば、だれも部下の育成などしないはずだからです(日給制の作業者であればその心配はありませんが)。
 いずれにしても、上司が強いリーダーシップを発揮するには職場のチームワーク、信頼関係がしっかりしていることが前提という所論には、まさに我が意を得たりという人事担当者が多いのではないかと思います。

■2004/06/09 (水) 人事への、そして働く人すべてへの福音

 きのうに引き続き、今朝の日経新聞朝刊「経済教室」の高橋伸夫氏の論考「日本型年功制を生かせ」も、たいへん頷かされるところの多いものでした。「働くということ−活力生む知恵」という連載シリーズのようで、今回が「2」となっています。「経済教室」は3回までの連載は「上中下」と表示されますので、少なくとも4回以上の連載になるのでしょう。最初にまともなものを並べておいて、あとから変なのを引っ張り出してまとめて叩こうという魂胆かもしれませんので油断できませんが(笑)、この調子で続くのであれば楽しみです。
 内容的には「虚妄の成果主義」のエッセンスといえそうです。金銭的報酬によるモチベーションの限界と、詳細な評価に労力をかけることの無意味さを説き、新しい仕事、やりがいのある仕事を与えること、人材を育成することの大切さを主張します。そして、「安心して働けるよう生計費を確保し、まずは仕事、次いで賃金などに差のつく」日本的年功制を生かすよう運用を改善することが最善であると述べています。
 まことに正論であり、これまで逆風のなかで耐えてきた人事担当者、心ならずも成果主義賃下げ路線に走らざるを得なかった人事担当者、成果主義にうっかりはまって後悔している人事担当者にとっては福音といえましょう。ひいては、働く人すべて(とまではいかなくても、ほぼすべて)にとっても福音かもしれません。
 ひとつ物足りないのは、「やりがいのある仕事」は有限であり、多くの企業ではこれを社員に十分に配分できなくなっている現実があることに答が示されていないことです。これは私たち人事担当者がしっかり考えていかなければならないことなのでしょう。

■2004/06/08 (火) 人事の基本だと思う

 今朝の日経新聞朝刊「経済教室」の守島基博氏の論考「個人と組織の能力蓄積を」は、ほとんどの点において非常に共感できるもので、氏のような有力な研究者がこうした見解を表明されたことは非常にうれしく思います。
 ポイントは要するに成果を生み出す能力こそが重要だということであり、個人の能力に加えて組織の能力が重要だ、ということでしょう。そのための基本的な考え方として、仕事を通じた人材育成、オライリーとフェファーの「隠れた人材価値」に書かれた施策(従業員を大切にして、働きやすい環境づくりをするということ)、長期雇用、人材の内部育成、長期的な人材評価、幅広いローテーションといったものが再評価されています。
 そして、重要なポイントとして「組織デザインとその中での人材の組み合わせ」、「たとえばどの仕事を正社員に割り振り、どの仕事を外部化するか」を「コスト要因だけで」はなく丁寧に考えること、スタープレーヤーだけではなく普通の人々が力を発揮できること、そして、人材マネジメントを制度や施策ではなく組織の結果、すなわち生産性やイノベーションや顧客満足や従業員満足で考えることが重要だ、と指摘しています。
 これはまさに、私が「労務屋」を運営するなかで一貫して主張してきたこととたいへんよく一致しており、まことに心強い限りと感じました。
 守島氏がどうかは別として、一部の経営学者にありがちなパターンとして、こうした基本的な考え方をシンプルに述べると非常に実務家の信念に近く、共感できるにもかかわらず、さらに細部具体の話になると、いきなり新奇(珍奇?)で難解な概念や舶来の理論、高級な先進事例が展開されてよくわからなくなってしまう、というのがあります。まあ、経営学者はそうでなければいけないのかもしれません。
 しかし、私たち実務家は、フェファーの本にあるように、わずかなりとも労働条件を改善し、少しずつでも就労環境を改善し、従業員の働きやすさを向上させていく、地道な取り組みに愚直に取り組んでいくことが大切なのではないでしょうか。それがひいては従業員の満足を通じて顧客の満足につながると信じたいと思います。

■2004/06/07 (月) 独善ここに極まれり

 イラクへの自衛隊派遣については、すでにいくつかのいわゆる「市民団体」が訴訟を起こしているようです。まあ、左翼的イデオロギーを持つ個人や団体がこうした運動を起こすことは日常茶飯事ですし、訴訟を起こすことは権利として保証されているわけですから、自由にやればいいのだとは思います。
 とはいえ、「イラク派兵違憲訴訟の会・東京」なる団体の「毎日、毎日提訴運動」なる運動には、さすがにあきれて口がふさがりませんでした。要するに、毎日1人ずつ裁判を提起していこうというもので、3月17日にスタートしてすでに55人が提訴しているのだとか。ちなみに訴えの内容は派遣自体を違憲としたり、特措法の立法過程に問題があるとしたり、現在のサマワは非戦闘地域ではないとしたりするもののようで、個別に内容を変えているかもしれませんが、基本的には同じようなもののようです。
 これは、いくらなんでも非常識というものではないでしょうか。団体のホームページには、口頭弁論の予定をずらずらと書き並べたカレンダーが誇らしげに掲げられていますが、それによって司法の正常な運営が妨げられ、結果として多くの人がたいへんな迷惑を被ってもかまわないというのでしょうか。法的救済を強く必要としている人の救済が、このせいで遅れてもいいということなのでしょうか。たしかに、彼らにとって自衛隊派遣はなによりも重要な問題であるのかもしれませんが、そうではない多数の人がいるということが目にはいらないのでは、それはまことに醜い独善にすぎません。しかも、団体の意図は「職権の発動を怠っている裁判所の姿勢を改めさせるための主権行使」だということですから、意図的に司法の妨害をはかっている可能性が高いのです。
 ついでにいえば、「職権の発動を怠っている」というのも意味するところは「彼らの主張に沿った違憲判決を出さない」ということですから、これまたまことに独善的な言い分ですし、「主権行使」というのも、少なくとも日本国憲法の示しているような「国家の政治のあり方を最終的に決定する力」という意味からは逸脱した詭弁的なものです。
 こういう迷惑行為をなんとかしてやめさせることはできないのでしょうか。つきあわされる判事や関係者も気の毒だと思います。

■2004/06/04 (金) ヤフー新卒採用5倍

 5月はなにかとバタバタ続きで「吐息の日々」に手がまわらず、結局1ヶ月落ちてしまいました。6月ももう4日ですが、そろそろと再開したいと思います。
 今朝の日経新聞朝刊に、ヤフーが2005年度の新卒採用を2004年度の5倍の150人に増やす、との記事が載っていました。中途採用は従来同様に毎月30人のペースで行うとのことですから、単純計算で年間360人で、あわせると年間500人ということになります。ヤフーのサイトをみると2004年3月31日現在の従業員数は923人となっていますから、まことに意欲的な採用計画であり、たいへんな急成長振りであるといえましょう。これにより2005年4月の人員は1500人になる見込みとか。
 さて、記事によれば新卒採用を増やすのは「中途入社の社員に比べて定着率の高い新卒者の比率を上げ、組織を安定化する」というねらいなのだそうです。たしかに、従業員数923人に対して年間採用が360人ということは、単純計算で平均勤続は3年以下ということになりますから、いかにも短く、これでは組織も安定しないでしょう。
 それにしても、現在の社員には新卒採用で入社した人は80人しかいないということですから、1年で150人というのは明らかな方針変更といえそうで、ヤフーが企業として少し成熟しはじめる段階に移行してきたことを示しているように思われます。ヤフーのような新ヴェンチャーでも、ある時期からは長期勤続、雇用安定を重視しはじめるということで、興味深いニュースだと思います。
 記事では障害者雇用も積極化するとなっていますが、これまた企業の成熟を示すものといえましょう。ヤフーの障害者雇用は現在10人弱ということで、従業員数が928人ですから高く見積もっても1%程度で、法定雇用率の1.8%には達していません。もちろん、これはとくに責められるようなことではなく、むしろ急拡大しているベンチャー企業としては、人員の増加に障害者雇用が追いつかないのが自然と考えるべきです。記事によればヤフーはこれを30人から40人までに引き上げる考えとのことで、これなら少なくとも2%くらいにはなり、法定雇用率も達成できるわけですが、障害者雇用については法定雇用率の上下ではなく、このように雇用率を上げていくというベクトルの向きが重要なのだと思います。


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