規制改革会議の中間とりまとめ(13.7.30)



 この7月24日に、総合規制改革会議(議長:宮内義彦オリックス会長)が「重点6分野に関する中間とりまとめ」発表しました。重点6分野とは、「医療」「福祉・保育等」「人材(労働)」「教育」「環境」「都市再生」ですが、その中の「人材(労働)」について見ていきたいと思います。
 具体的な施策として目立つのは、まず「職業紹介規制の抜本的緩和」として、求職者からの手数料聴取を認めること、特にヘッドハンターが紹介するような高収入の専門職については無制限に認めることを求めています。
 募集・採用時の年齢制限については、今般の雇用対策法改正で事業主の努力義務とされましたが、それに加えて、年齢制限を行う場合はその理由の明示を義務づけることを求めています。
 派遣労働については、派遣期間の上限の延長や、「物の製造」の業務への派遣禁止の撤廃などを求めています。
 労働基準法の関係では、裁量労働制の対象業務の拡大や、企画型裁量労働制における手続きの簡素化、有期雇用契約の上限の5年への延長と要件の緩和を求めています。さらに、労働基準法に関しては、さらに抜本的な見直しとして、ホワイトカラー・イグゼンプション制を参考とした制度改革や、解雇の基準やルールの明文での法制化の検討に着手するよう求めています。
 社会保障の関係では、派遣社員やパートタイマーなどへの社会保険の適用拡大を求めているほか、退職金制度の見直し、企業年金のポータブル化などが必要としています。
 また、今回の特徴として、すべてに実施や検討の期限が付けられており、人材(労働)分野では、法改正が必要でないものは可及的速やかか次期予算編成時に実施するよう求めており、法改正が必要なものも今年度中には結論、長期的な課題も早急に検討に着手することを求めています。ちなみに、他の分野では官僚や関係団体の抵抗で実施時期の先送りなどが行われましたが、人材(労働)分野については原案どおりとなったとのことです。
 以上ご紹介したような具体的施策は、細部に問題のある内容もありますし、退職金や企業年金については余計なお世話という感じもしますが、全体的には妥当な内容ではないかと思います。ホワイトカラー・イグゼンプション制は連合の、解雇の基準やルールの明文での法制化は日経連の、それぞれ抵抗の強い部分だと思われますが、今回は「検討に着手」との表現に止められたのも妥当な判断だと思われます。実現にあたっては、主に労働組合が抵抗勢力になるものと思われますが、現実を踏まえて前向きな対処を期待したいと思います。
 さて、具体的な施策はこのように妥当なものなのですが、実はその前提となる基本的な問題意識や改革の方向性については、かなり疑問のある内容になっています。
 まず、「問題意識」としては、グローバル化や技術構造の急速な変化などにより、個別企業、産業の栄枯盛衰は速まり、その保障できる雇用期間は短くなることから、個人が高齢化により長期化する職業生活を全うするためにも、若年人口が減少する中で衰退産業から成長産業に人材を移動させるためにも、企業間・産業間労働移動の円滑化が必要であり、企業による雇用保障から、「労働市場による雇用保障」に体制を移行すべきだと主張しています。
 また、産業高度化により、高度な専門能力を持つホワイトカラーなどが増加したり、就労形態の多様化が進んだりしている中で、主に工場労働者を念頭に置いた従来型の規制が必ずしも適正ではなくなっている、とも主張しています。
 しかし、環境変化の急速化=企業の寿命の短縮と短絡的に決め付けることが本当に適切でしょうか。企業というものは、長期的に存続し、発展していくために、市場の変化に対応し、新商品や新事業の展開にチャレンジしていくダイナミズムを内包しています。かつては繊維メーカーだった東レや旭化成は、今では総合化学メーカーです。キヤノンはカメラメーカーから複写機メーカー、そして情報機器メーカーへと変貌しました。セイコーもシチズンも今では事業の主力は時計からコンピュータ機器に移ってきています。こうしたエネルギーは非常に大きなものがあり、人材(労働)分野においても、それを生かすために、内部労働市場の柔軟化を実現しているわけです。ところが、今回の「中間とりまとめ」では、こうした内部労働市場の役割を軽視し、外部労働市場に偏重しています。これは、企業の持つ存続・発展に向けたエネルギーをそぎ、経済全体にとってもマイナスになりかねない可能性もあると思います。
 とりわけ、「労働市場を通じた雇用保障」を中心とすべきという考え方には疑問を感じざるを得ません。労働力については、現実には価格(賃金)の柔軟性に一定の限度があることや、在庫がきかないこと、輸送(移動)に制約があることなど、市場になじみにくい特徴が大きいことはよく知られています。もちろん、労働市場の機能を強化することは重要であり、それゆえ今回のとりまとめも、具体的施策においては適切なものになりました。しかし、労働市場によって、十分な雇用保障が可能と考えることはできません。専門職のホワイトカラーだった人が、最低賃金ギリギリのサービス業に従事することになっても、雇用されさえすれば雇用保障だ、というのならば、それはそれなりに「市場による雇用保障」かも知れませんが。
 工場労働者を念頭においた現行法制に不適切な部分が出てきている、という問題意識は同感できるものです。しかし、それでは「高度な専門能力を持ち、雇用主と対等に近い交渉力を持つ労働者」がどれだけいるかと云えば、まだまだごく一部の少数派にすぎません。そういう意味では、工場労働者のような、労働時間と成果がほぼ比例し、立場の弱い労働者は減っていますが、主力になりつつあるのは、「労働時間と成果は比例しないが、立場は弱い」という労働者であるのが実態でしょう。こうした立場の弱い人に比べれば、立場の強い人はまだまだ一握りです。今回の具体的施策は、こうした状況に合った内容になっていると思いますので、今後、「ホワイトカラー・イグゼンプション制」や「解雇の基準やルールの明文化」の検討にあたっては、この点を十分重視してほしいと思います。
 このように、今回の具体的施策は大いに歓迎すべきものであり、高く評価したいと思いますが、基本的な問題意識に問題点や心配点もあり、今後の議論は注意深く見守る必要がありそうです。

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