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内閣府から、「不良債権の処理とその影響について」という報告書が発表されました。位置づけとしては、「内閣府政策統括官(経済財政−景気判断・政策分析担当)」の所轄する「バランスシート調整の影響等に関する検討プロジェクト」の報告、ということになるようです。内容的には、不良債権問題の現状把握とその原因、再発防止策といったものをかなり幅広く含んでいるのですが、なんと言っても注目されるのは、政府の機関が不良債権処理の雇用への影響を公式に試算したことです。各種マスコミの報道も、ほぼこの点に集中していました。 もともと、不良債権の最終処理にともなう雇用への影響については、民間のシンクタンクなどからいくつかの試算が発表されていました。前提とする不良債権処理の規模や期間などが異なるため、一概に比較はできないのですが、目につくものを列挙しても、このくらいあります。 ○野村総研(3/16)8〜16兆円/半期の処理で離職7〜14万人/半期 ○ニッセイ基礎研(4/6)22〜64兆円の処理で離職130〜374万人 ○ドイツ証券(4/13)12.7兆円の処理で離職31〜102万人 ○第一生命経済研(5/7)12.7兆円の処理で離職111万人 ○日本総研(6/26)15.3兆円の処理で失業53万人 このほかにも、竹中経済・財政担当相が5月末の国会答弁で「過去の傾向からは不良債権処理1兆円について数千人〜1万人くらいの離職が出ると考えるのが適当で、数万人から十数万人の離職になる。民間の試算は過大」と発言しています(これは野村総研の試算を念頭に置いているらしいと云われてます)し、経済産業省も、非公式に12.7兆円の処理で16〜21万人が離職するとの試算をしているとの報道もありました。 とはいえ、どの試算も、元になるデータが決定的に不足しているため、相当に大胆な仮定と前提を置いたものであり、その信頼性はかなり疑わしいと云わざるを得ないものでした。そういう意味で、今回の「プロジェクト」の報告は、行政のプロジェクトならではの、通常民間からアクセスできないようなものも含めて、豊富なデータにもとづくものとして注目を集めたわけです。実際、報告書も、「本推計の特徴は、業種別の負債特性や雇用特性を考慮し、企業整理の影響の把握においては実際の過去の倒産企業の財務データを使用するなど、現在入手可能なデータを最大限利用している点である。」と述べています。 試算の概要ですが、最終処理にあたって私的整理(債権放棄をともなう)が行われる場合と、法的整理のみが行われる場合とに分け、さらにそのそれぞれについて、「95−00年実績」「98−00年実績」「00年実績」の3種類のデータを使用して、つごう6通りの試算を行っています。その結果が、離職者の規模が約39〜60万人、そのうち18〜27万人が転職に成功し、9〜15万人が再就職を断念して非労働力化する結果、13〜19万人が失業するという結果が出ています。私的整理をともなう方が法的整理のみに比べて離職も失業も少ないのは当然ですが、使用データの期間については、大きな差はないものの、長いほうが離職も失業も大きくなっています。これは倒産の中の再建型の比率が年々上がっていることが効いているようです。 さて、この試算について、民間機関との数字の比較などから、「甘すぎる」という意見が上がっています。離職と失業の違いはありますが、離職の数字で見ても確かに小さくなっています。実際、この試算について、報告書でも、「ただし、本推計の結果を見る上で、いくつかの点について留意する必要がある。第一に、主要行に絞ってその影響を推計したが、不良債権の最終処理は地域金融機関やその他の金融機関も迫られる可能性が高い。第二に、破綻懸念先以下債権の新規発生分の影響については推計の対象外としている。第三に、破綻懸念先以下債権の最終処理がもたらすデフレ効果がさらに実体経済を押し下げる波及効果については勘案していない。第四に、過去の実績に基づいた影響分析であり、過去と同じ形の調整が行われた場合の影響を明らかにしているにすぎない。第五に、情報の制約から地域的なインパクトは推計していない。今後、構造調整に伴う雇用政策を考える際には、この地域性も勘案されなければならない。」と、問題があることを率直に認めています。そして、「最終処理の影響の実態を把握する上で、明らかにデータの不足が制約要因となったことを示している。」と述べていますが、たしかにそうだろうと思います。 さらに、この試算については、次のような心配点も指摘しなければならないだろうと思います。第一に、非労働力化や転職について過去のデータを使用していますが、今後短期間で大幅に離職が増加した場合、限界的な非労働力率や転職率は逓減する可能性が高いのではないかと想像されます。第二に、転職にあたっての職種ミスマッチが発生する可能性があることです。平成11年版労働白書によれば、建設業における転職の67%は同じ建設業内で移動しています。かつては建設業の求人が多かったからそれが可能だったわけですが、今後は建設業での新規求人はあまり望めません。となると、他の産業には転職しにくい人が多い分だけ、転職率が低くなる可能性があります。これらはいずれも、失業を多くする方向に働くでしょう。 報告書が指摘するとおり、これだけ重大な政策決定に関わる事項であるにもかかわらず、データの不足は歴然としており、報告書の言うとおり「不良債権問題のみならず、わが国の構造改革を進めるに当たり、政策効果の分析に資するデータ環境の整備は緊急の課題である」と思われます。そして、現に確からしい試算ができない中で政策を進めるのであれば、かなりの程度までリスクを織り込んで、十分な対策をとる必要があるのではないでしょうか。 |