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現在、厚生労働省は「パートタイム労働研究会」を開催して、パートタイム労働についての研究を進めています。その議事概要が厚生労働省のホームページで公開されていますが、5月21日に開催された第3回研究会の議事概要を見ると、パートタイマーと正社員の均衡待遇との関連もふくめ、短時間正社員の導入・普及が話題となっているようです。これに先立って、5月17日の新聞報道では、厚生労働省がその普及に向けて補助金制度の創設を検討するとの記載もありました。 「短時間正社員」という言葉が目立つようになってきたのは、日経連が今年の「労働問題研究委員会報告」で、女性や高齢者の労働力の活用などを念頭において、雇用形態の多様化を進めるべきだと主張し、その具体例として、在宅勤務やゆるやかな請負などとともに「雇用期間の定めは正社員と同様にないが、毎日午前中だけとか、週3日だけとか働く」といった勤務形態を提案したことによります。「報告」はこれに関連して、「労働時間管理と賃金のあり方や社会保険費用の負担と給付など…整理、解決すべき問題は多い」と述べています。 この「報告」の記述を受けて、マスコミ各社は、これをパートタイマーと正社員の均衡処遇の問題と関連させ、同一内容の仕事に従事するパートと正社員の極端な処遇格差を違法とした「丸子警報機事件」の地裁判決なども引きながら、パートの処遇改善につながるものとして歓迎、一部では経済界にその実行を促す論調もありました。 ところが、その後の日経連の動向を見ると、日経連の考え方はこれとは異なっているようで、むしろ、現行の臨時的なパートタイマーとの関係において、短時間正社員と臨時的パートとの違いを、職務の質の違いなどで明確にすべきとの見解を示しています。ということは、一応現行パートタイマーの処遇改善を念頭に置いたものではない、ということになります。「職務の質」というのは微妙な表現ですが、ある時点では同一内容の仕事に従事しているとしても、長期的に雇用されて将来的に基幹的な役割を担う人材として期待され、育成される人と、そうでない人との違いを念頭に置いたものであると思われます。 日経連はその他にも、「労働時間管理と賃金のあり方」の課題として、時間給概念の確立・明確化や、さらには、「いくつかの判例が示しているような、『労働時間が短縮されたため賃金が減少する場合は労働条件の不利益変更になる』という考え方を改めること」などを上げています。これは結局のところ、多様化もさることながらワークシェアリングの発想が強いようで、しかも、後段の労働条件不利益変更に言及しているということは、企業が過剰人員を抱える中で、フルタイムの正社員を短時間正社員に転換することで、雇用は維持しつつ人件費を削減するということを意図しているようです。 これに対して、連合は、「現実は、『報告』でも『選択肢の拡大』と『雇用コストの削減』を結びつけているように、コスト優先の『使い勝手の選択肢』が拡大し、『多様化』ならぬ『二極化』が進展している。こうしたパート労働者や派遣労働者などの処遇改善には、『同一価値労働=同一労働条件』の原則を確立させることが急務であり、もはや避けて通れない課題となっている。原則の確立なしに『選択肢の拡大』はありえず、『労働法制面での諸規制の緩和・撤廃』だけを求めるのは、一面的といわざるを得ない。」と反論しています。 これらの議論の背景には、「オランダ・モデル」の影響があるものと思われます。連合は、オランダでは「同一労働同一賃金」が徹底されており、それがオランダ・モデル採用の大前提だ、と主張しているのに対し、日経連は、時間給概念の成立があれば十分であり、社会横断的な賃金相場の形成は必要ないと考えているようです。行政の立場は、「パートタイム労働研究会」の議事要録などを見る限りでは、「同一」ではないが「均衡」に配慮ということであり、それなりに理由のあって説明できる程度の差におさめるべき、ということだと推測されます。こうした中で、「短時間正社員」が拡大してくる可能性は、現実としてどこまであるのでしょうか。 まず現実の問題として認識しておくべきこととして、すでに短時間正社員は一部で制度化され、実現しているということがあります。すなわち、いわゆる育児時間や介護時間などと言われている制度がそれであり、企業によっては、これら法律に記載されたものとは異なる理由でも勤務時間短縮を認めている例もあるでしょう。この場合、ほとんどの企業では、こうした育児や介護のための勤務時間短縮を実施した場合、短縮された勤務時間については無給とし、時間割計算で賃金を減額しています。これから類推すれば、特段同一価値労働同一労働条件といった原則論とは関係なく、社員が業務と関係のない事情で短時間就労を希望した場合に、企業が時間割による賃金の減額によってそれを認めるというケースが出てくる可能性はある(企業にそれだけのニーズがある人は実際には多くないとしても)ものと思われます。これは数は少ないにしても、立派な短時間正社員と云えるものでしょうし、特に優れた能力を持つ女性が出産・育児などと両立しながらキャリアを継続したり、高度な技能や知識を持つ高齢者が継続就労するためには役立つ方法と言えるでしょう。この場合はむしろ、そのような個別的で不規則な判断と取り扱いが行われることが、組織風土として容認されるかどうかということが問題になりそうです。 次に、有期契約のパートタイマーであっても、現に繰り返し契約の更新が行われ、かなり長期にわたって勤続して、それなりの役割を果たしている人を、正社員に転換するというケースも考えられます。これについても、パートタイム労働指針で、正社員を募集する際には同種の業務に従事するパートタイマーに優先的な応募機会を与えるよう努めることが事業主に求められており、実際にこうした機会によって正社員として採用されるケースも多く見られます。 とはいえ、特に正社員の増員等のニーズがない場合には、企業にはパートタイマーを正社員に転換することのインセンティブは働きにくいと考えるのが常識的でしょう。厚生労働省のパートタイム労働研究会における議論では、短時間正社員制度を導入し、短時間労働者の処遇を改善した方が企業にとって有利であるという前提で議論が進んでいるようですが、これはいささか現状と乖離がある議論のように思われます。もちろん、ミクロで見れば確かにその労働者の意欲の向上、定着の促進という効果があり、あるいは優れた人材の確保という面でも有利だろうとは思われますが、その一方で、有期雇用であれば雇い止めが比較的容易であるというメリットもかなり大きく、とりわけ現在のように経済が停滞し、先行き不透明な状況においては、トータルでは企業にとって有利であるかどうかはかなり疑わしいからです。したがって、企業はパートタイマーを短時間正社員に転換するよりは、正社員とパートタイマーの仕事の質の違いを明確化する方向に進みそうです。それが正社員の負担を高める可能性があることは厚生労働省のパートタイム労働研究会でも指摘されています。 その次に考えられるのが、日経連が主張するような、経営の事情によって正社員の勤務時間を短縮し、賃金も減額するというワークシェアリングです。これも、経営危機が現実のものとなっている企業においては、労使の合意にもとづいて一時的に実施に移されている例もあります。とはいえ、この4月に公表された厚生労働省の「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」を見ても、こうしたタイプのワークシェアリングについては、実施している企業は2%にとどまり、77%の企業が「実施するつもりはない」と回答しています。勤労者の方は53%と過半数が賛意を表していますが、賃金が低下するのであれば実施すべきでないとの意見が多く、結局のところよほどの事情がなければこうした形態の「短時間正社員」は実現しないようです。日経連の主張は、このような現状に対して、経営サイドが一方的に賃金低下をともなう正社員の短時間正社員化を行えるようにすべしとの意見かも知れませんが、それはさすがに乱暴な意見と云うものでしょう。 もう一つ、可能性として考えられるのは、兼業、あるいは通学などのために最初から短時間勤務の正社員となり、それを基本的な就労スタイルとするという働き方も、ありうるかも知れません。これもあくまで企業のニーズと働く人の能力次第ということになるでしょう。ただ、働く側としても例えば一日四時間の仕事のために転勤したりする気にはならないでしょうし、雇う側としても教育訓練を積極的に行うということはなさそうなので、長期にわたって勤務して幹部を目指すといった働き方にはならないように思われます。 このように考えてみますと、労使双方にとって現実的でメリットのある形としては、「短時間正社員」というよりは、正社員の勤務時間短縮制度ではないかと思われます。この場合、賃金は時間割にするとしても、福利厚生や退職金などの取り扱いについては、別途取り決めが必要になるでしょう。社宅の家賃などは割り増しにするという考え方もありうるかも知れません。 もちろん、これとは別に、最初から短時間勤務で正社員となる(期間の定めのない雇用契約)ことができるようにしておくことも、今後は人材確保のために必要になってくるかも知れません。それはおそらく、短時間正社員という固定的な一つの制度が増えるということではないでしょう。働き方の多様化が進む中で、フルタイムで働く人がいる一方で、個人が自分のライフスタイルにあわせて、さまざまな場所的・時間的拘束度・自由度のバリエーションを組み合わせ、カスタム・メイドで働き方を決めていけるような、柔軟性の高い雇用管理を実現していくのが、より豊かな職業生活という意味で望ましいのではないかと思います。 そういう意味では、「短時間正社員」の要件を決めて、その要件に該当するものには補助金を支払う、といった政策は、その勤務形態を固定化してしまい、本当の意味での多様化、自由な選択の実現のためには、かえって妨げになってしまうのではないでしょうか。 |