負担増を論じる前に(14.7.15)



 失業増にともなう財政悪化で、対策が不可避になっている雇用保険ですが、その方向性が徐々に明らかになりつつあるようです。
 新聞報道などによると、雇用保険法の弾力条項を「可能な限り早急に」発動して保険料率を0.2%引き上げ、今年度中に約1,500億円の財源を確保することとされているようです。これは前回の雇用保険法改正の際にすでに定められているもので、一定の条件を満たした場合は厚生労働大臣が「労働政策審議会の意見を聞いて」発動できるとされており、今回は審議会(の雇用保険部会)において、「給付・負担両面を全面的に見直す」ことを条件に労使ともに負担増を容認する方向ということのようです。すでに前回改正時に議論を尽くした上での弾力条項導入でしょうから、まずは妥当な線であるといえそうです。
 そこで問題は「給付・負担両面の見直し」ということになりますが、現時点での方向性としては、給付抑制策として「高所得層や60歳台前半の給付率・上限額の見直し」「自己都合離職者(結婚など)への給付日数の短縮」「教育訓練給付の引き下げ」などがあげられているようです。その一方、「パートタイムの給付内容を正社員と一本化」など、非典型労働に対する配慮も織り込まれており、これらはむしろ給付の拡大につながる可能性もあります。まあ、財政が厳しい中でも必要な給付は確保すべきとの考え方もあるでしょう。給付の抑制に関しては、制度的なものにとどまらず、公共職業安定所における運用面での施策も含まれています。具体的には、求職活動の状況などを厳しくチェックして失業認定を厳格化するなどの取り組みを行うとされています。さらに、職安以外の方法を活用した求職活動が拡大している現状をふまえ、こうした活動に対する支援を行うむねも盛り込まれています。どんな形でもあれ、再就職が促進されて失業者が減れば失業給付も減るわけなので、これも広い意味での給付抑制策と言えるかも知れません。
 さて、はたしてこれで今後とも財源が確保できるかという問題ですが、どうやら中長期的な財源の安定という観点では必ずしも十分ではないというのが現実的な見方のようです。そこで、「給付・負担両面」の「負担」の話が出てくるわけです。これに関しては、政労使の三者は「負担の見直しも必要」という点では一致しているようですが、その意味するところは正反対というのが実情とみられます。すなわち、労使がともに「公費の一層の導入」を主張しているのに対し、厚生労働省は「さらなる料率の引き上げ」を目論んでいるという図式のようなのです。
 これは、どちらにも言い分があり、労使はともに「現状の高失業率は異常事態であり、非常時には臨時に国費を柔軟に投入するのが筋」と主張しているようです。たしかに、現状の失業率が問題である以上、問題のある状態を前提とした制度にすべきではないというのは正論でしょうし、国の施策のまずさが高失業を招いたとの思いもあるでしょう。
 その一方で、厚生労働省の主張は、わが国の雇用保険は、国際比較上料率が低く国庫負担が著しく大きいということを根拠にしています。実際、アメリカやフランスでは国庫の負担はなく、ドイツでも15%にとどまっていますので、わが国の25%は高い水準であることは間違いなさそうです。それをさらに引き上げるのはおかしいではないか、ということで、国際比較が根拠になりうるのかどうかという根本的な問題はあるとしても、それなりに一理あると言ってよさそうに思います。それよりなにより、国家財政がこれだけ厳しい中にあっては、国庫負担を増やせと言われてもない袖は振れない、という言い分もあるでしょう。
 これに関しては引き続き三者で議論がすすめられるとのことですが、私が感じるのは、それ以前の問題として、はたして給付の削減はこれで十分なのか、という疑問です。
 たとえば、現在の雇用保険制度だと、大枠として、6か月間就労して自己都合退職すると、3か月の待機の後に約3か月の給付が受けられるとされています。バブル期には、これを活用?して、半年はとにかく働き、残り半年はその蓄えと失業給付で生活する、というライフスタイルがかなり広がったのではないかと思います。そして、今でもこういう生活を送っている人も相当いるのではないでしょうか。
 これに対しては、求職活動の状況を厳しくチェックするというのも対策のひとつかも知れませんが、より抜本的には、6か月を1年とか2年とかにするという方法を考えてもいいと思います。それに満たない失業者については、失業給付ではなく生活資金の貸し付けを行うといった対策をとるわけです。
 あるいは、教育訓練給付がバラマキだというのであれば、育児休業給付も考えようによっては若干バラマキ的といえなくはないでしょうか。教育訓練にかかった費用の8割助成がバラマキで、育児休業で働いていない期間の賃金の4割助成がバラマキでないという理由は、実は案外見つからないのではないかという気がします。もし、これが少子化対策だということであれば、少子化は必ずしも被用者だけの問題ではないはずで、必ずしも財源のすべてを雇用保険でまかなうのではなく、一般財源を一部用いてもいいという議論にはならないでしょうか。
 その他、職安での運用にもまだまだ問題はあるように思います。前回法改正で自己都合退職と事業主都合退職とで給付日数に差が出るようになったわけですが、職安の窓口では、自己都合の離職票を持ってきた人に対して、「会社都合にした方が給付が多く有利」などと指導?している例もあるそうです。これでは、何のために法改正したのかわかりません。もちろん、職員が自己都合退職の給付削減に反対の意見を持つことは自由ですが、職務は職務で忠実に行われるべきでしょう。また、失業給付を受給しつつ、アルバイトなどに従事している例も多いと言われており、こうしたことのチェックもそれなりに必要ではないかと思います。
 安易に料率の引き上げや国庫負担の増加に走る前に、ムダ遣いの縮小にもしっかり取り組んでほしいものだと思います。

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