|
すでにかなり以前から報道などでは伝えられていましたが、さる3月29日に、政労使ワークシェアリング検討会議における「ワークシェアリングに関する基本的な考え方」についての政労使の合意事項が発表されました。 概要を見てみますと、最初に基本的な理念について「ワークシェアリングの取り組みに関する5原則」として要約しています。その上で、わが国として取り組むべきワークシェアリングとして「多様就業型ワークシェアリング」と「緊急対応型ワークシェアリング」の2つのタイプを指摘し、それぞれの具体的な取り組みの方向性、留意点を記述しています。また、三社が政労使合意の周知をはかること、今後とも「検討会議」でワークシェアリングの検討を継続的に行なうことなども確認しています。 内容を見てみますと、まずは全体の要約的なものが「ワークシェアリングの取り組みに関する5原則」として掲げられています。労使合意らしくけっこう長文の原則ですが、交渉と妥協の産物としては致し方のないところでしょう。 第一の原則として、ワークシェアリングとは、雇用の維持・創出を目的として労働時間の短縮を行うもの、と定義したうえで、多様就業型ワークシェアリングの環境整備に早期に取り組むことが適当であるが、当面は厳しい雇用情勢に対し、緊急対応型ワークシェアリングが選択肢の一つである、としています。ポイントとしては、「時短をともなわない賃下げは、ワークシェアリングではなく、単なる雇用調整に過ぎない」ということと、「わが国のめざすワークシェアリングは、フランスやドイツのようにフルタイムの正社員を増やすワークシェアリングではなく、オランダのような働き方の多様化を推進するものである」という2点が明瞭に確認されたことでしょう。 原則の第二は、ワークシェアリングは個々の企業においては労使の自主的判断と合意により行われるべきものであり、労使は、生産性の維持・向上に努めつつ、十分協議を尽くすことが必要、としています。一部には、雇用の安定・創出のためには生産性の低下もやむなし、という論調も見られますが、それが明確に否定されたことになります。より具体的には、生産性向上を上回る時短については相応の賃金引き下げをともなうことが基本(そうしなければ生産性が低下する)だということが確認されたことになります。 第三の原則としては、政府、日経連、連合の三者は、多様就業型ワークシェアリングが働き方やライフスタイルの見直しにつながると認識し、環境づくりに積極的に取り組む、としています。単に働き方だけでなく、家庭や余暇なども含めたライフスタイル全体の見直しにつなげていくという意図が確認されているわけです。 さらに第四として、多様就業型ワークシェアリングの推進に際しては、労使は、働き方に見合った公正な処遇、賃金・人事制度の検討・見直し等多様な働き方の環境整備に努める、としています。「公正な処遇」については労使間にまだまだ見解の相違はありそうですが、いずれにしても違う働き方の間の公正な処遇について検討するのだ、という課題設定はできたということになります。 最後の原則は、緊急対応型ワークシェアリングに際しては、経営者は雇用の維持に努め、労働者は所定労働時間短縮と収入の取り扱いに柔軟に対応するよう努める、というものです。これはすでに進展している緊急対応型ワークシェアリングを追認したものといえましょう。 基本的なポイントは五原則で概ね示されていますので、本文からは目立つところだけをご紹介したいと思います。 なぜ多様就業型ワークシェアリングなのか、という点については、その効果として、国民の価値観の多様化や仕事と家庭・余暇の両立などのニーズに対応すること、企業が多様な雇用形態を活用し、経営効率の向上を図ること、女性や高齢者の能力発揮による生産性向上・労働力確保を可能とすることがあげられています。すなわち、働く人と企業の双方にニーズとメリットがあるという認識に立っていることになります。妥当な考え方といえるでしょう。 多様就業型の「環境づくり」の具体的内容としては、短時間勤務正社員・隔日勤務正社員などの賃金・人事制度に関し、職務の明確化、時間当たり賃金の考え方等について検討すること、多様な働き方及び成果に見合った公正な処遇と十分な説明を行なうこと、仕事の仕方の見直しや労働時間管理の適正化を行なうこと、年金・医療保険の適用を拡大すること、などの検討を進めることがあげられています。 いっぽう、緊急対応型ワークシェアリングのあり方としては、「今後2〜3年」と時限を切った緊急措置として、労使合意の上、雇用維持のため、所定労働時間短縮と収入の減額を行うことが選択肢の一つ、としています。要するに所定短縮のない賃下げはワークシェアリングではない、ということです。さらに、緊急対応型ワークシェアリングについては、従来の雇用調整措置とは異なる新たな雇用調整の手段として位置づける、と念を押しています。経営の必要にともなう雇用調整であり、労働者が恩恵的に雇用を守られるだけのものではないということでしょう。このあたり、連合のこだわりがひしひしと感じられます。そして、実施にあたっての留意事項がいろいろあげられていますが、目立つところとしては、時間あたり賃金の減額をともなわないこと、実施に先立ち、労働時間管理の徹底・残業の縮減が必要とうたっていること、実施中も、労使は生産性向上など経営基盤の強化と新事業展開の努力を行うとしていることがあげられます。 政府の財政的支援については、連合がなんらかの支出を強く求めたのに対し、日経連は他の方法で雇用維持に努力している労使に対し不公平であること、財政支出はより積極的な雇用創出などに用いられるべきであることなどを理由に反対の姿勢を示していましたが、結局のところは連合の強硬姿勢に配慮する形で、「公平性の観点等にも配慮しつつ、引き続き検討」との玉虫色の結論に落ち着きました。連合としてみれば、財政支援をつけることで緊急対応型ワークシェアリングの有利さを高め、連合にとってヨリ望ましくない「所定短縮なしの賃下げ」などの手段を取りにくくしようという考えもあるのかも知れません。 全体の評価としては、たしかにまだまだ「同床異夢」的な部分も多々見られるものの、短期間にここまで合意にこぎつけたことはそれなりに立派なものだと思います。 通読してみると、「多様就業型」を「緊急対応型」に前置したこと、ワークシェアリングは労働時間の短縮をともなうことを明記したこと、均衡処遇・労働時間管理適正化・社会保障の拡大などにも言及したこと、緊急対応型ワークシェアリングは所定短縮をともない、時間あたり賃金の減額をともなわないことを明記したことなど、連合がおおいにポイントを上げたという印象があります。日経連としては、これからのワークシェアリングについて「多様就業型」とすることが明記されることで、フランスやドイツに見られるような、賃金を減額せずに労働時間を短縮し、フルタイムの正社員を増やすという方向性が排除されたこと、さらにはワークシェアリングの前提として「生産性の維持・向上」を明記したことなど、根本的な考え方の部分で経営サイドの意向に沿った方向性が示されているので、細部についてはこれからの交渉だという考え方なのかも知れません。 今後とも政労使の検討会議で検討を続けるとのことですが、これからの検討にあたっては、ぜひとも欧州などの前例に過度にとらわれることなく、柔軟な発想で検討をすすめてほしいものだと思います。具体的な例としては、多様就業型を議論するときには「職務の明確化」が必ず言われますが、それでやりやすくなることを認めるにしても、ぜひとも必要であるということは言えないのではないかと私は考えています。組織としての業務分担の柔軟性、助け合いのメリットを生かしながら多様就業を進めることは可能なはずです。 もう一つあげるとすれば、連合が執拗にこだわっている「労働時間管理の適正化」があります。もちろん、過度の長時間労働や働き過ぎは好ましいことではなく、そういう意味で行き過ぎをチェックするための管理は必要だろうと思います。とはいえ、ホワイトカラーの仕事の多くは、労働時間管理になじまない部分を多かれ少なかれ持っていることも事実です。現行労働時間法制を前提にするのではなく、現行法制の適正化も並行して考慮しつつ検討を進めてほしいものだと思います。 |