企業「本社」の就労実態(14.5.2)



 総合規制改革会議をはじめとする規制改革論議の中で、主だった経済的規制についての議論が一巡したこともあってか、労働分野の規制改革についての議論が従来以上に活発になっているようです。とりわけ民間からの要望が強いのが「有期雇用」「派遣労働」「裁量労働」の三点セットですが、とりわけホワイトカラーについて労働時間(拘束時間)ではなく成果で処遇しようとの考え方から、裁量労働の抜本的な規制改革を求める意見が強いようです。とはいえ、労働界などを中心に、「サービス残業の合法化」「従来以上の長時間労働につながる」との反対意見も強く、議論は膠着している感があります。
 裁量労働の規制緩和論者が念頭に置いているのは、いわゆる「本社」部門で事務的・技術的業務に携わる、「成果と労働時間が必ずしも連動しない」人たちです。まあ、実際にはある程度の連動は当然あるでしょうが、その関係があまり強くない人たちということになります。
 こうした議論にあたっては、現実にこういう人たちがどのような就労実態にあるのかをある程度踏まえておく必要があるでしょう。少し古いのですが、平成12年6月に東京労働局が東京所在のいわゆる「本社」事業所を対象に調査、集計したデータがあるので、これを見ていきたいと思います。時間外労働時間についてのデータがないのが物足りないのですが、調査対象事業所は約3000社、うち約2000社から回答を得たということでサンプル数もかなり多く、また、事業所の規模を見ると従業員300人以上で7割、1000人以上で3割を占めており、いわゆる「本社」のイメージに概ね一致しているように思われますので、それなりに参考となるデータではないかと思います。
 はじめに所定労働時間について簡単に見ておきますと、99.8%が一日8時間、一週40時間以下になっています。年間休日数では6割以上が年間120日(すべての土日、国民の祝日に加えて、さらに若干の休日(創立記念日やメーデーなど)を確保できる水準)以上で、7割以上の事業所が原則すべての土曜・日曜が休日となっており、99.8%が年平均で週あたり2日以上の休日を設定しているという結果になっています。その結果、年間の所定労働時間は、1900時間を下回る企業が6割以上、13.4%が1800時間を下回っており、2000時間を上回るのは7%にとどまっています。
 さて問題の時間外労働についてですが、この調査では労働時間の把握方法、所定外労働および割増賃金支払の管理方法、所定外労働削減策について質問しています。
 まず労働時間の把握の方法ですが、「出勤簿」の利用が56%と最も多く、次いで「届出書」が30%、「タイムカード」が28%となっています。複数方法で把握している事業所も多いようです。昔ながらの方法が多いわけですが、IT技術を生かした「IDカード等」による把握が13%、「社内LAN」が3%と、新しい方法による管理も広がりつつあるようです。「労働時間の記録を行なっていない」事業所は1%を切っていますので、労働時間の把握はほぼすべての事業所で何らかの形で行なわれているといえるようです。
 いっぽうで、時間外労働および割増賃金支払の管理については、労働者の自己申告ベースのものが多く、「自己申告をそのまま時間外労働時間とする」事業所が11%、「自己申告を管理職が確認する」が49%と、あわせて60%にのぼっています。タイムカードベースによるものは、「タイムカードをそのまま」が16%、「タイムカードを管理職が確認」が23%で、約4割となっています。
 時間外労働の実施に関しては、就業規則などには「上司が命じた場合に行なわせる」としている企業がほとんどだと思われますが、実態を見ると、「事前に管理職が指示した場合のみ実施」が14%、「その都度事前に申請して管理職が承認」が33%と、管理職の指示や承認によるものは4割を下回っています。現実には、ほとんどの企業が時間外労働の実施を本人まかせにしているのが実情ではないかと思われます。
 この結果を見ると、「労働時間は何らかの方法で把握されて」おり、「時間外労働の実施は本人まかせ」だが、「割増賃金支払については上司の確認がはいる」というのが典型的なパターンということになりそうです。
 なお、時間外労働削減のための企業の取り組みとしては、「特になし」とした5%を除けば何らかの施策が打たれています。
 最も多いのは「管理職への啓発」で7割を超えています。「間接部門の合理化・OA化」「社員への啓発」も過半数となっています。制度面での取り組みとしては「変形労働時間制・フレックスタイム制の導入」が約3割、「ノー残業デーの実施」が25%となっている一方、「36協定の上限引き下げ」「割増賃金率を法定以上に設定」は1割を切っています。「要員増」も20%ありますが、要員増をともなわない「業務計画の改善」の34%を下回っています。ちなみに「労使協議による削減への取り組み」をあげた企業も27%ありますが、回答事業所の属性を見ると過半数が「労組あり」となっていますので、これはいささか淋しい結果であるといえそうです。
 さて、これを見て裁量労働の規制緩和をどう考えるかですが、さすがに時間外労働そのものの実情がこれではわからないので、なかなか明確には言えそうもありません。ただ、少なくとも、時間外労働が本人の裁量に任されており、その認定も自己申告ベースという点では、一応裁量労働になじむ働き方に近づいているとは言えそうです。すでに所定労働時間もそれなりに短いものになっていますし、労働時間の把握や、時間外労働の削減努力といった面での管理体制も一応できているようです。これで時間外労働そのものが、身体的にハードワークではなく、ある程度なら就労時間中にも小休憩(喫煙時間など)を自分の裁量で確保できるホワイトカラー業務としてリーズナブルな範囲におさまっているのであれば、裁量労働拡大の素地はそれなりに整っていると考えてもいいのではないでしょうか。
 もちろん、企業により、時期により、あるいは個別の部署、人によってケースは多様なので、なかなか一律には考えにくい問題であることも事実です。とはいえ、回答企業の過半数に組合があるにも関わらず、労使で時間外労働削減に取り組んでいるという回答が4分の1程度しかないということでは、労組の反対意見にそのまま耳を傾けようという気にはなかなかならない、ということだけは言えるように思います。

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