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国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の将来推計人口(平成14年1月推計)」は、従来の推計を大幅に修正するものとなりました。内容は衝撃的と言えば衝撃的ですが、その一方で、すでに薄々「こうだろう」と思っていたものが追認されたという感もあります。いずれにしても、これまでの推計と大きく異なるものを出すということ自体が、今の官庁組織の中ではかなり大胆な行動でしょうから、こうした推計が公表されたことをまずは高く評価すべきなのだろうと思います。 中位推計の仮定を見てみますと、まず、晩婚化に関しては、昭和25年出生コーホート(今年52歳)の24.4歳から昭和60年出生コーホート(今年17歳)の27.8歳まで進み、その後は一定。生涯未婚率は、同じく4.9%から16.8%まで進んで一定。完結出生児数は、夫婦で2.14人から1.72人、全女子で1.98から1.39まで減少して一定となると仮定されています。この結果、合計特殊出生率は平成19年の1.31で底を打ち、平成61年には1.39までゆるやかに回復するとされています。 これがどのくらい変わったのかということを、前回の平成9年1月推計と比較してみますと、前回推計では、昭和55年出生コーホート、すなわちその当時の「今年17歳」、現在の「今年22歳」に関して、晩婚化が27.4歳、生涯未婚率が13.8%、完結出生児数が夫婦で平均1.96人、全女性で1.61人でその後一定と仮定していました。 こうして見ると、今回大きく変更されたのが、「子どもを生む数」であることがわかります。将来の完結出生児数が、前回推計では夫婦で平均1.96人、全女性で1.61人だったのが、今回推計では夫婦で平均1.72人、全女性で1.39人に下方修正されているわけです。 それでは実態はどうかと言えば、厚生労働省の人口動態調査によれば、平成12年の平均初婚年齢は男が28.8歳、女が27.0歳です。生涯未婚率は平成7年国勢調査のちょっと古いデータですが、男子9.07%、女子5.28%となっています。平成12年国勢調査結果による生涯未婚率は見つかりませんでしたが、30〜34歳の未婚率は男性が42.9%、女性が26.6%と、平成7年に比べそれぞれ5.6ポイント,6.9ポイント上昇しているそうですから、生涯未婚率もかなり上がっているでしょう。そして、国立社会保障・人口問題研の第11回出生動向基本調査によれば、これまた平成9年と少し古いですが、結婚持続期間15〜19年における夫婦の完結出生児数は2.21人です。 もともと、前回推計の仮定は楽観的すぎるとの批判もあったわけですが、それなりに根拠はあったわけで、この「結婚持続期間15〜19年における夫婦の完結出生児数」は、1967年調査までは一貫して低下を続けていましたが、それ以降は1972年2.20、1977年2.19、1982年2.23、1987年2.19、1992年2.21、1997年2.21ときわめて安定的に推移してきました。これでは、将来に向けてもこの傾向が続くだろうと考えるのも無理はないところです。 さらに、同じ調査では、子ども数についての考え方(理想子ども数と予定子ども数)も調査しているのですが、これで「結婚10年未満の夫婦の理想子ども数」を見ると、1977年2.49、1982年2.57、1987年2.59、1992年2.51、1997年2.40と、これまた非常に安定的な推移を見せています。「結婚10年未満の夫婦の予定子ども数」も、1977年2.13、1982年2.21、1987年2.27、1992年2.16、1997年2.12という安定ぶりですから、前回推計段階では「少子化の主因は晩婚化・未婚化であり、今後も結婚すれば安定的に2人くらいの子どもを生む」と考えたのもやむを得ないと云えそうです。 ところが、現実にはこうした趨勢にもとづく推計は外れ続けました。これは結局のところ、「理想」「予定」と「実際」との間のギャップが広がってきたということに他なりません。データが安定的に推移する中での構造変化が見過ごされてきたということでしょう。この点について、フリージャーナリストの鈴木りえこ女史は鮮やかに喝破しています「今では、若い人が『理想のこども数が3人』などというのは、『都心で3階建て、プール付きの家に住みたい』というのと同じことに過ぎない」。要するに、理想というのは、育児に必要なおカネがそれなりにあり、家も十分広く、託児所、保育所などのインフラも整備されていて、特段の苦労も我慢もないのなら、3人くらいいればいいな、というくらいのものだ、というわけです。予定の方には、どうしても世間の「やはり2人くらいは」といった通念が入り込みますから、ゼロとか1とかいう答が出てきにくいという事情もあるでしょう。こどもがほしいということの意味や、切実さが変わってしまったのです。 これは、実は先からひいている「第11回出生動向基本調査」の結果にも、その一端らしきものが出てきてはいます。たとえば、「予定が理想を下回る理由」を見てみると、若い人は圧倒的に「おカネがかかる」というのが多く、全体ではこれと年齢的な理由をあげる人が多いのですが、「自分の趣味やレジャーと両立しないから」という理由をあげる人が、1987年2.0%、1992年3.4%、1997年5.7%と倍々ゲームに近い伸びを見せており、特に20代後半については、97年には12.8%がこれをあげています。なかなか云いにくい理由であることを考えると、この数字はまさに前述のような意識の変化が進んでいることを示しているように思われます。 こういう意識変化がさらに進むと考えると、実は今回の中位推計の仮定も実は甘すぎた、ということになる可能性もないとはいえません。ちなみに今回の低位推計の仮定はそれぞれ28.7歳、22.6%、1.49人、1.12人となっています。さすがにここまでは行かないだろうと思う反面、これまでのことを考えるとこれもありかなという気もします。この場合、合計特殊出生率は下がり続け、平成61年には実に1.10まで下がるのだそうです。まあ、昭和50年代には、例えば三全総では2001年の日本の人口を1億3000万人と予測していたという話もあるらしいので、出生率もいつなんどき増加に転じてもおかしくはないのですが。 この推計をもとにして、社会保障、特に年金制度などは、新たな再設計を迫られることになるでしょう。もともと、これまでの推計の甘さが年金不信の一因となっていたということはあるようなので、これは好ましい話だということになると思います。国民が「これなら持続可能」と安心できるような社会保障改革の方向性を示すことは、国民の不安感を軽減し、消費支出増、ひいては景気の回復にもつながる話だと思います。 それに加えて、少子化対策についても、改めて見直しが必要ではないでしょうか。現在の少子化対策は、私には「働き方」「仕事と育児の両立」にいささか偏りすぎているように思えます。もちろん、それは重要なアイテムであるとは思いますが、もっと総合的・一般的な育児のコストダウン、負担軽減策が必要であると考えられるからです。 |