企業はワークシェアリングに消極的か(14.2.18)



 先週のはじめ、経団連が実施した雇用関連のアンケート結果が発表されました。日経連との統合を控え、労働分野への取り組みも進められているようです。
 その中に、ワークシェアリングに関する設問があり、マスコミなどでも取り上げられていました。今回はこれを材料に考えてみたいと思います。
 このアンケートは、昨年11月に実施されたもので、経団連の法人会員会社約1,100社が対象となっています。経団連ですから、日経連と異なり、おおむねわが国を代表するような大企業が網羅されているのだろうと思われます。有効回答は307社で回収率は27.9%ということですから、この手のアンケートとしてはまずまずというところでしょうか。設問はワークシェアリングだけではなく、派遣、有期雇用、裁量労働制など雇用形態の多様化全般に関する内容になっていますが、話題になっているのはもっぱらワークシェアリングに関する部分です。
 具体的には、「いわゆるワークシェアリングを導入していますか」という設問に対して、「導入している」が6%、「導入する予定である」が9%、「導入していないし、導入する予定もない」が85%という結果だったことを受けて、マスコミ等では、「ワークシェアリング導入に前向きなのは15%に過ぎない」などとして、産業界の大勢はワークシェアリングに消極的という報道を行なっているわけです。
 そもそも、15%という数字が大きいのか小さいのか、という評価についても議論があるだろうと思います。ワークシェアリングというのは決して日常的に行なわれるものではなく、むしろ非常事態に近いものですから、そこまで追い詰められた企業が15%もあるというのは、かなり多いという見方もできるからです。
 それに加えて、この15%という数字も、もう少し詳しく見てみる必要があります。というのは、アンケートの最初の方に、「人員削減を実施、または予定があるか」という設問があり、全体の31%が「従業員の削減予定なし」と回答しているからです。削減予定がない企業が削減の代わりにワークシェアリングを検討するなどということはありえないわけですから、これを除いて「従業員の削減予定のある企業のうち、ワークシェアリングを導入済または導入予定の企業の割合」をごく大雑把に試算すると、約20%となります。
 さらに、アンケートでは、人員削減を実施、または予定の企業に対して、その規模をたずねています。それによれば、人員削減済または予定のある企業においても、その半数以上は人員削減規模が「約10%以下」となっています。企業によって事情はさまざまでしょうが、実務家の感覚としては、1割程度の人員削減であれば、ワークシェアリングを実施するまでもなく、自然減を中心に、や派遣・パートなど有期雇用の雇止めなどで十分対応可能な範囲でしょう。そこで、これらも除いて、「約10%以上の人員削減済・予定の企業のうち、ワークシェアリングを導入済または導入予定の企業の割合」をやはり大雑把に試算すると、約50%となる。したがって、マスコミの報道はかなり表面的なものであって、現実にはワークシェアリングは一定規模以上の人員削減にあたっては現実的な手段の一つと考えられているといえるのです。
 さらに、現実を見ると、正規雇用から派遣、パートなど非正規雇用への代替はかなりの勢いで進んでいます。こうした取り組みも一種のワークシェアリングといえるわけですが、これを進めている企業は、とても全体の15%では効かないでしょう。だからこそ連合も警戒感を強めているのであり、現実に非正規雇用比率はどんどん高まっています。今回の調査では、こうした対応は「ワークシェアリング」とは捉えられていないものと思われます。これはワークシェアリングの定義、範囲の問題ですが、現実には、企業の担当者も意識しない間に、事実上ワークシェアリングを行なっているとも言えるなのです。
 さらに、一部では報道された「ワークシェアリングを検討しない理由」については、複数回答で、「業務分担の難しさ」が最も多く69%、続いて「労働生産性の低下」が44%、以下「賃金抑制の難しさ」が41%、「成果・昇給など人事評価の難しさ」が36%、「従業員のモラルの低下」が35%、「社会保険料の企業負担増」が30%、「通勤交通費・福利厚生費の企業負担増」が25%という結果が出ています。
 「業務分担の難しさ」が最も多かったのはちょっと意外な感じがします。現在最も注目されている「緊急避難型ワークシェアリング」においては、従業員の増減がありませんので、業務分担も変更の必要がなく、したがって「業務分担の難しさ」という問題の発生しようがないからです。これはおそらく、緊急対応型ではなく、オランダ型(雇用多様化対応型)などの別のタイプのワークシェアリングが念頭におかれているのでしょう。やはりワークシェアリングの概念について混乱が見られるわけですが、これは昨年11月という時期を考えると致し方のないことかも知れません。
 労働生産性と社会保険料の問題については、賃金抑制が不十分だから発生するものですから、この3つはセットと言えるでしょう。概ね同じくらいの数字になったのも納得のいくところです。複数回答で3〜4割という数字をどう評価するかは難しいところです。
 ただし、ここでも似たような注意が必要で、回答の選択肢の中に、「そもそも人員削減の必要がない」とか、「ワークシェアリング以外の方法で対応が可能」とかいったものがありません。現実には、具体的にワークシェアリングその必要性のない企業が少なくとも3割、ワークシェアリング以外の方法で対応が可能な企業を加えると半数をかなり超えると思われるだけに、選択肢が設定された回答が過大評価されている可能性が高いと思われます。
 このように、「企業はワークシェアリングに消極的で、その理由は生産性の低下」というマスコミの報道は、かなり表面的でポイントを外しているといわざるを得ません。回答した企業の方にも混乱があるようでもあり、議論の整理が必要だということになりそうです。

労働雑感にもどる
 
iconホームにもどる