|
経済広報センターという財団法人があります。経団連の外郭団体で、主に経済界の意見を広告などの形で世間にprすることが主な役割ですが、広報の基本は受信と発信ですから、さまざまな世論調査などを通じて社会のメッセージを受信する活動にも取り組まれているようです。その一貫として、三千人を超えるモニター(社会広聴会員)や千人弱のeネット会員を通じた意識調査が行なわれています。今回はその中から、昨年11月に実施された第五回「企業観アンケート」をご紹介したいと思います。 さて、この調査ですが、基本的には「生活者」の企業に対する信頼感や企業の社会的責任に対する意識を把握し、企業広報やコーポレート・ガバナンスに関連する施策、提言に生かしていこうというもので、人事・労務担当者にとっても興味深い内容を含んでいます。 調査ではまず、企業の社会的な役割、責任といわれるものについて、それぞれの重要度を聞いています。いずれも「重要」とする回答が多いのですが、もっとも重要度が高かったのは「事業」で、「非常に重要」+「重要」で95%以上を占めています。当然の結果といえるでしょう。続いて「環境保護や省資源・省エネルギー」が94%、「雇用の維持と創出」が91%で続いています。「非常に重要」だけを見ると「事業」が72%で突出して高く、「環境保護や省資源・省エネルギー」が54%、あとは企業倫理、危機管理、情報公開、雇用40%台で続きます。その他の選択肢は20%台にとどまっていますので、ここまでが企業の役割、責任として重視されているといえるでしょう。ちなみに「株価の向上と安定配当」は「非常に重要」+「重要」で79%、「非常に重要」だけだと19%にとどまっており、いずれも「メセナやフィランソロピー」を上回るだけのブービーとなっています。 次に、これら企業の社会的責任が果たされているかどうかの評価を訊ねていますが、「全く果たしていない」こそ2%と少ないものの、56%が「あまり果たしていない」と回答しています。「十分果たしている」は1%、「概ね果たしている」は38%なので、かなり辛い評価といえます。しかも、「十分」+「概ね」果たしているの割合は、97年以降56%→53%→50%→44%→38%とどんどん低下しています。 その一方で、「企業に対する信頼感」が「この1年間で」どう変化したか、を訊ねた設問では、「特に変化していない」が65%と最も多く、「低くなった」は29%、高くなったは5%となっています。昨年の調査では「低くなった」が42%でしたので、かなり改善しているという結果になっています。これは、この調査が行なわれたのが昨年の11月で、雪印乳業の食中毒事件や三菱自工のリコール隠しなど相次いだ一連の不祥事からは1年以上経過している一方、まだ雪印食品による産地偽装などの不祥事は発覚していないという、不祥事の谷間であったことによるものでしょう。そういう意味では、同じ調査を産地偽装事件発覚後にもう一度実施すれば、その影響を測定できたわけです。まあ、費用もかかりますしなかなか難しいでしょうが・・・。 次の設問「企業の信頼感の維持・向上に何が重要か」に対する回答で、「企業倫理の確立と順守」が昨年までの1位から5位に後退したのも、おそらくは同様の時期的な要素が大きかったのでしょう。いま調査を行なえば違った結果がでるものと思われます。ちなみに1位は「事業」で6割程度、次いで情報公開、環境保護、雇用が4割前後で並んでいます。 注目すべき結果が出ているのは、「企業経営において今後さらに重視すべきステークホルダーは何か」を聞いた設問です。これに対しては、最も多かったのは「顧客」で78%となっています。もちろん、顧客は現在も大いに重視されているはずですが、今後はさらに重視すべきだということで、企業の顧客指向を求める意見が多いようです。これと並んで高い支持を集めたのが実は「従業員」で、72%の人が「現在以上に重視すべき」としています。世間ではむしろ「日本企業は従業員を重視しすぎ」との見解が横行していますが、それとは正反対の結果が出た(しかも経団連外郭団体の調査で)ことは大いに注目されるところです。「就業者」と「就業者以外」にわけた集計結果も公表されていますが、前者が72.3%、後者が71.2%とほとんど違いはありません。3位は「生活者全般」の56%、4位は「地域社会」の42%が続きますが、上位2つとはかなり差があります。ちなみに、「株主」という回答は、「個人株主」が16%弱、「機関投資家」が4%で、合計しても2割に達しません。株主であることも多い「金融機関」をあわせても25%ですから、わが国の世論としては、株主重視より従業員重視の企業経営が圧倒的に支持を集めているのが現実であるということになりそうです。 ほかにも興味深い設問がありますが、人事・労務とは直接関係ないので割愛させていただきます。もちろん、世論に従うことがすべて正しい経営、正しい政策運営であるとばかりは言えないことも当然でしょう。とはいえ、世論を軽々に無視することができないこともまた当然です。世間には依然として株主至上主義の経営や投資家優遇政策を説く論調もありますが、国民の意識を無視した経営や政策が成功するとはあまり考えられないのではないでしょうか。 |