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元通産官僚の村上世彰氏が経営する投資顧問会社「M&Aコンサルティング」が、アパレル大手の東京スタイルに対してプロキシ・ファイトを仕掛けていた同社の株主総会が先週開かれ、持ち合い株主を中心に機関投資家などまで支持を取り付けた会社の提案が可決、村上氏らの提案が否決されました。アメリカでは先日もヒューレット・パッカードの株主総会で、コンパック買収の方針をめぐって経営陣と創業者一族が大掛かりなプロキシ・ファイトを展開したように、プロキシ・ファイト自体は普通に行なわれているわけですが、伝統的に持ち合いの多いわが国ではかなり珍しいものです。とはいえ、バブル崩壊後に持ち合い解消が進んだことで、これまでに較べれば珍しいものではなくなるのかも知れません。 村上氏らのビジネス・モデルは基本的には非常に単純で、財務体質の優良な企業の大株主となり、内部留保している手持ち資金で設備投資をさせずに配当や自社株買いなどを行なわせ、配当やキャピタル・ゲインを得ようというものです。当初は、東証2部上場の昭栄に敵対的TOBを仕掛けるなど、売名行為であったにせよ乱暴なビジネスを展開していましたが、このところは大株主として経営に圧力をかけるという洗練された、悪く言えば陰湿な手法を用いています。今回の東京スタイルとのプロキシ・ファイトでも、会社の自社株買いについてインサイダー取引の疑いがあるとして証券取引等監視委員会に調査依頼を提出したり、委任状勧誘の差止めを請求したりなど、あらゆる手段を使って攻撃しました 普通に考えれば、要するに株主総会の会社提案の議決を妨げ(しかも、外形的にはかなり嫌がらせに近い手法も用い)、自らの利益を得る(即座に裏金を受け取るのか、圧力をかけて自社株買いをさせてキャピタル・ゲインを獲得するかという手法の違いはありますが)わけですから、やっていることはいわゆる総会屋、特殊株主と基本構造としてはなんら変わりはありません。その手口はあくまで合法の範囲で洗練されており、元通産官僚という経歴や、オリックスの宮内義彦氏とその資金がバックについていること、さらには日経新聞が英雄扱いしていることなどから、非常にスマートな印象を与えていますが、そうした虚飾をはいでしまえばただの法の抜け穴を突くゆすりまがいと言うこともできるのではないかと思います。 さて、東京スタイルの高野社長は村上氏らの主張に対して「業績は好調」「手元資金は50年間の経営の成果であり、短期保有の株主にあれこれ言われる筋のものではない」「ファッションビル事業に投資を計画中」と反論しました。労務屋的に見ると、この二番目の「50年間の経営の成果」というところに注目したいところです。 東京スタイルが1200億円ものキャッシュ(内部留保総額で1200億円ではなく、内部留保のうち現金や有価証券などの流動性の高い資産だけで1200億円あるそうです)を持っており、それが特段の事業活動に投資されているわけでもないことは事実のようです。とはいえ、その1200億円が本当に何の利益ももたらしていないかといえば、それは決してそんなことはないはずで、それこそ安定した財務体質を見込んで投資している投資家もいるでしょうし、また、取引における信用力の後ろ楯になるなど、それなりにビジネスの役にも立っているはずです。現在のように有望な投資案件がない以上は、その資金力を(株主への還元ではなく)信用力の面で生かすというのも長期的に合理的な判断のように思われます。さらに、そのような安定した経営基盤を持っていることは、人材の確保や、従業員のモチベーションという意味でもかなりの意味を持っているのではないかという気がします。同じ働くのであれば、多くの人は財務体質が脆弱で経営が危うい企業より資金が豊富で安定した企業を選ぶのではないでしょうか。 さらに、この問題は「資本と労働との間の配分」という古典的なテーマに直結しています。もちろん、内部留保は将来の経営のために株主総会の決議を経て蓄積されたものですから、それをそのまま労働条件改善の原資とできるとの労組の議論には根拠がありません。とはいえ、その一方で、労使間で交渉と妥協が行なわれてきた結果、それだけの内部留保、手元資金が確保されたという面も否定できないものと思います。要するに、労組(東京スタイルには労組がないようですが)や従業員としては、「それが経営基盤強化に役立ち、将来的な雇用の安定や労働条件の向上に資するなら」ということで、賃上げや賞与の交渉で妥協したという場面がきっとあっただろうと思うわけです。そういう意味では、やはりこの手元資金には従業員もそれなりに取り分を主張してもいいはずであり、こうした事情を一切考慮せずに、短期保有の株主が手元資金を収得しうるというのは、現行の株式会社制度、商法の大きな問題点であると考えるべきではないでしょうか。村上氏らはそのホームページで「今回の提案は株主以外のステークホルダー(従業員や取引企業などを含めた会社を取り巻く関係者)に影響を及ぼさないよう配慮して立案しております。」と述べていますが、現実には資金力のもたらす信用力や安心感を失うわけですから、これは明らかに虚言というべきでしょう。 そういう意味で、私は労働組合がこの件に関してほとんど意見表明をしていないことがきわめて奇異に思われます。スジから考えれば働く人のものでもある資金を、株主が巻き上げてしまおうとしているわけですから、これほど労働運動にとって看過しがたい事態もないのではないかと思うのですが、どうなのでしょうか。今回の村上氏らの提案が可決されれば、村上氏らは50億円以上の配当を受け取ることになったといわれます。これらが直接村上氏ら個人のふところに入るわけではもちろんありませんが、それにしても従業員が50年間にわたって営々と築き上げてきたこれだけの資金が、わずか1年足らず株式を保有した株主に吸収されてしまうというのは、働く人にとってはいかにも理不尽な話のように思われます。確かに、株主と経営陣の話は労組には無関係ということかも知れませんが、本当にそれで済ませていいのでしょうか。連合といわないまでも、アパレルを多く組織化しているゼンセン同盟などは、それなりの抗議の意思表示をすべきではないかと考えます。 |