またもや雇用の政労使合意(14.12.5)


 昨日(4日)の政労使雇用対策会議で、「雇用問題に関する政労使合意」というものができあがったそうです。前回(11月26日)の会合での首相の指示を受けてのものだとか。基調としては、昨今一段と厳しさを増している雇用情勢に対して、政労使が一致協力して対処していこうということで、時宜を得た重要な取り組みであるといえるでしょう。
 とりわけ、「政府はこの合意に基づき、補正予算および平成15年度予算の編成ならびに関係法律案の提出など早急に必要な施策を樹立し実施する」と、予算措置をともなう政府の対応を行うことが明記されており、具体的なアクションを起こすことを念頭においた内容となっています。
 内容を見ると、まず第一に雇用の維持・確保ということで、経営サイドは雇用の維持・確保にこれまで以上に最大限の努力を行う、労働サイドはコスト削減やワークシェアリングも含めた就業形態の多様化に協力し、雇用維持に必要であれば労働条件の弾力化にも対応するとなっています。これは、昨年10月発表された、労使(当時の日経連と連合)による「『雇用に関する社会合意』推進宣言」とほとんど同一の内容であり、雇用情勢の改善が進まない中で、労使の雇用維持策がかなり手詰まりに近い状態であることを伺わせます。
 今回は政労使の合意ということで、行政の役割も書き込まれており、雇用の維持・確保に関しては、労働保険の効率化・重点化とともに、労使の取り組みを支援するとなっています。
 そのほか、第二に、就職促進策として、民間人材を活用した就職支援の強化、ハローワークの機能改革、構造改革や創業支援などによる新規雇用の創出、雇用保険制度改革があげられています。また、即効性のある施策として、緊急地域雇用創出特別交付金の増額もあげられています。このあたりはもっぱら行政の役割が中心になり、労使はそれに協力するということになるでしょうか。
 さらに第三として労働市場改革があげられており、規制改革や労働法制の見直しなどが列挙されています。
 こうしてみると、内容的にはそれほど目新しいものはないように思われますが、細部を見るといろいろと注目すべき記述をふくんでいます。
 まず、雇用の維持・確保に関しては、経営サイドが「最大限の努力」としているのに対して、労働サイドはワークシェアリングも生産性向上もコスト削減も、さらには労働条件の弾力化までも明記させられています。特に、この「弾力化」というのは、さすがに連合としては「賃金の引き下げ」とか「労働条件の切り下げ」とかは言えないということでこの表現になっているわけで、意味するところは雇用維持のためには賃下げやむなしということでしょう。これは、昨年の「推進宣言」では「賃上げについては柔軟に対応する」となっており、今年春の「ワークシェアリングに関する政労使合意」でも「所定労働時間の短縮とそれに伴う収入の取り扱い」ということで、時間単価は下げないということになっていたのと較べても、さらに一段踏み込んだものとなっています。
 一見して、労働サイドが一方的に譲歩したかのように見えますが、今回の合意文ではそのあとに「労使は、労働時間管理など、労務管理上生じうる個別的問題については協議を尽くして問題解決にあたる」との一文がさりげなく織り込まれています。これは要するにサービス残業の問題を指していることは明らかでしょう。実際、連合はこれを特に重視しており、来春闘の闘争方針でも、サービス残業防止の協定化を共闘課題として掲げています。掲げてはいるものの、現実に経営サイドがこの協定化の交渉に乗ってくるかどうかはかなり疑問と思われる状況であっただけに、ここで行政をも交えた「政労使合意」という形でこの問題について「協議を尽くして問題解決にあたる」という言質をとったことは大きなポイントといえるでしょう。「個別的問題について」という文言まで入っていますので、経営サイドとしては、これを個別労使でなくナショナルセンターの話だと弁解するのも難しいでしょう。現実には個別企業にはサービス残業についての労使交渉には消極的なケースも多いでしょうから、この一文が入ったのは日本経団連としては「してやられた」のかも知れません。
 また、政府の役割として、「雇用保険制度の効率化、重点化」ではなく「労働保険制度の効率化、重点化」となっているのも目につくところで、これは最近言われているように労災保険まで含めて見直しを行い、企業の負担の軽減をはかるべきという趣旨でしょう。後段にも「労災保険料率も併せて検討する」との記述があります。これについては、労災はそもそも使用者の無過失責任で保険料も全額企業負担なのですから、本来なら労災保険の安定的運営という観点から労働サイドは批判的であるべきだろうと思いますが、雇用保険への一般財源投入といった点では労使は一致しているだけに、ここは大きな問題ではないとして看過したのかもしれません。なお雇用保険の保険料率に関しては、厚生労働省は今年10月に続くさらに一段の引き上げを画策したものの、現時点では他省庁などの反対もあって頓挫しているわけですが、この「合意」の文面では「制度の安定的運営を確保するために必要な保険料率の水準については、景気の自動安定化装置としての機能も考慮しつつ検討する」と、簡単にはあきらめないぞという姿勢で、なかなかしぶといところを見せています。
 同じように、労働市場改革の部分においても、規制改革、法制見直しに触れたあと、しっかりと「中高年者の再就職が容易になるよう現行の慣行の見直しを検討する」と書き込んでいます。これは要するに企業の求人の年齢制限をやめろということでしょう。現実にはそもそも求人が少ない中で、文面上年齢制限をやめたところで中高年の再就職がはかばかしく進むわけでもないでしょうが、厚生労働省としては意を通したということなのでしょう。
 さらっと読むと、あるいは通り一遍の内容に読めてしまう文章のようでありながら、なかなか多くの意味がこめられており、まとめあげるにあたっての政労使三者の折衝もたいへんだったのではないでしょうか。
 こうした取り組みは、最近では1999年の旧日経連と連合による「雇用安定宣言」がはじまりで、その後政府が加わったり、春闘のテーマとなったりするなど、かなりの広がりを見せています。残念ながらこの間雇用失業情勢は一段と悪化しており、こうした取り組みの限界も感じざるを得ないわけですが、雇用不安がパニックに陥るのを防ぐという意味でも地道な努力が求められていると思います。なんとか現状をもちこたえつつ、労働需要の改善をすすめていくことが重要ではないでしょうか。


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