ノーペイ・ノーワーク(14.10.10)



 連合は、先月12日の中執で、「労働時間法制順守の取り組み」をすすめることを確認したそうです。来年の春闘の共闘項目とすることを念頭に、まずはこの11月に職場実態の点検活動を実施し、そのうえで来年2月を「労働時間順守月間」として、「ノーペイ・ノーワークの取り組み」を展開する計画なのだそうです。この「ノーペイ・ノーワーク」というスローガンには思わず受けてしまいましたが、これが示しているとおり、「労働時間法制順守」とはいうものの、本命は断然不払い残業、いわゆる「サービス残業」ということなのでしょう。同じ12日に開催された日本経団連と連合の懇談会でも、連合首脳は口々に「不払い残業」の実態の深刻さを訴えたそうです。
 ここ数年、売り上げや生産量の減少に較べて人件費が減っていないということで、多くの企業が人員削減を進めています。もちろん、企業活動としては、売り上げが減ったら人件費も減らして、人件費比率と利益率を適正に保ちたいというのは当然でしょう。
 問題は、人件費が多すぎるといっても、必ずしも職場として人が多すぎるというわけではない、という点です。もちろん、生産現場や建築現場のように、仕事量の減少にともない、直接的に人員過剰が認識できる職場もあるでしょう。こういう職場では、残業を減らしたり、派遣やパートなどを雇い止めしたりして対処しているものと思われます。その一方で、営業や管理部門、あるいは技術、開発などといった職場では、売り上げが減っても仕事が減らないことの方が多いでしょう。「企業内失業」などということばがありますが、本当に各企業で窓際で新聞を読んでいる人がどんどん増えているかといえば、そんな職場はまずほとんどないのではないでしょうか。
 それでも、企業としてみれば背に腹は代えられないということで、人件費を減らすために人員削減をせざるを得ません。そうなると、職場としてみれば、仕事は変わらないのに人員だけ減らされたということになり、残った人が忙しくなるということになります。まさに、連合が昨年度の「連合白書」で危惧していた「逆ワークシェアリング」が拡大しているわけです。さらに、人件費が厳しいわけですから、残業時間なども予算管理で枠をはめられます。それからはみ出した分がどうなるか、と考えれば、なるほど不払い残業が増えているという連合の主張もむべなるかなという印象はあります。
 さて、そこで連合が具体的にどんな運動を考えているかというと、「厚生労働省に求める課題」として「事後的な監視・監督機能と指導の強化」「自己申告制度についての見直しの検討」「賃金・労働時間適正化協力員(仮称)制度の創設」などの要求項目が並んでいます。1948年には35.7%であった労働基準監督官による臨検監督実施率が、90年代は5%を割り込む水準にまで低下しているという実態をあげて、監督行政の強化を求めています。
 これについては、第一にあげている項目ではありますが、あまり原理原則論にならないように注意してもらいたいものです。もちろん、監督を行うこと自体には反対しませんし、悪質な事例に対しては厳格に臨むことも必要でしょう。連合も、「『重大』かつ『度重なる』違反については」直ちに司法的制裁を与えるよう働きかける、としていますので、一定の配慮は持っているようです。
 不払いは法違反なのだから取り締まれ、というのはまさしく正論でしょうが、現実の活動においては、まずは法規制が実態に即して本当に適切なものなのかどうかをきちんと考えておく必要があるのではないでしょうか。労働界とその周辺を除けば、裁量労働制の適用範囲の大幅拡大が必要だというのはほぼ統一見解になっています。生産現場などと異なり、ホワイトカラー職場では、仕事のペースのコントロールは相当程度個人の裁量になっています。時間外労働にしても、仮に就業規則上は上司の指示によるとされていても、現実には上司から担当業務の包括的な指示のみ受けて、時間外労働するかしないか、どれだけするかの判断は担当者に任されていることが多いのではないでしょうか(どれだけ計上するかは必ずしも自由ではないかもしれませんが)。厳密にいえば、就業時間内にお茶を飲んだりたばこを吸ったりして、仕事をしていない時間もかなりあるはずです。こういう実態の職場に対して、罰則を持つ法律を杓子定規にあてはめていくことが適切であるとはいえないでしょう。連合にも行政にも適切な対応をお願いしたいものです。
 この問題はむしろ、産別組合で構成された連合ではなく、各単組が主役となって取り組むべき問題ではないでしょうか。
 もとより、サービス残業が発生してくるのには、最初のほうで書いたように、各企業の経営の事情が大きく影響してきます。働いただけ企業にカネを払わせればそれで解決、ということにはならないのがこの問題の難しいところです。労組としても、企業経営上許される人件費の上限がおのずと存在することは理解できるでしょう。それを突破して労使が共倒れしても意味がないわけで、そうした制約のある中で、解決策を模索していかなければならないわけです。さらには、背景となる労働条件や人事制度も企業によって異なりますし、労働時間管理をふくむ労務管理がどれほどのレベルで実践されているかも、企業によって大きな開きがあるでしょう。この問題に対する組合員の意識もさまざまでしょう。すなわち、個別企業それぞれの事情に応じて、労務管理はもとより、働き方や仕事の進め方、生産性の向上、労働条件のあり方などを総合的に勘案して適切な解決策を考えていかない限り、実効ある取り組みとはならないのではないでしょうか。
 さらに、この問題に関しては、組合員個人の意識の問題も大きく関わってきます。実際問題、多くの実務家にとっては、いわゆるサービス残業は、やらせることよりやめさせることの方がはるかに難しい、というのが偽らざる実感ではないでしょうか。連合の傘下に入っているような労組のある企業なら、「サービス残業をさせない・しない」ということを、人事部が繰り返し管理職や各職場に徹底をはかっているはずです。それでもなかなかサービス残業をなくせないというのが多くの企業の実情ではないでしょうか。
 その理由はいろいろ考えられますが、随所で指摘されるように、企業が成果主義的な人事制度を導入したことが、サービス残業をしてでも成果をあげ、高い評価を得ようというインセンティブとして働いているということはたしかにあるだろうと思います。というより、これはわが国大企業で典型的な「同期競争モデル」においては、古くからあったことではないでしょうか。あるいは、とにかくおカネがほしいという人が、残業代の予算が絞られる中で、「100時間残業したのだから、35時間くらいつけさせてくれ」という理屈で長時間労働しているというケースもあるでしょう。問題解決の道として、「不払い」と「残業」のどちらを重視するのか(おカネをとるか時間をとるか)についても、人それぞれ考えが違うのではないでしょうか。
 こうしたことを考えても、この問題は、各企業において労組と人事部の協働によって取り組んでいくことが重要だということになると思います。
 連合が労働界あげてこの問題に取り組もうというのは、それなりの意味のあることだとは思います。ただし、現実の問題としては、労組がこれに取り組むことを必ずしも歓迎しない組合員が、おそらくは連合が想像する以上にいるのではないかと思います。経営サイドも決して問題意識がないわけではないでしょうから、現実を直視し、実態に即した実りある取り組みとなるよう、労使の努力を期待したいものだと思います。

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