パートの均衡処遇は今すぐできる(14.2.14)



 先週、厚生労働省の「パートタイム労働研究会」が、「パート労働の課題と対応の方向性」と題する中間とりまとめを発表しました。その中で、正社員とパートタイマーとの「均衡処遇」にむけたルールの確立が改めて訴えられています。特に注目されるのは、「正社員も含め、多様な雇用形態における働き方や処遇のあり方全体を見直す」と明記して、均衡待遇実現のためには正社員の待遇を引き下げることをも視野に入れたところでしょう。
 とはいえ、報告書のいう「均衡処遇ルール」は、ヨーロッパに見られるような、職務に応じて横断的に賃金が決まるというものではなく、「外形的に同じ仕事をしていても、年齢、勤続年数、扶養家族、残業・配転などの拘束性、職務遂行能力、成果などの違いによって、処遇が大きく異なりうる」というわが国の賃金決定の特性を十分に考慮した、いわば「日本的均衡処遇ルール」と云うべきものとなっています。
 その具体的な内容は、すでに平成12年4月に「パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告」で示された内容を踏襲しています。その骨子は、正社員と同じ職務を行なうパートタイム労働者に関しては、処遇や労働条件の決定方式(要するに賃金制度ということでしょうか)を正社員と合わせることを奨励し、合わせられない場合も、水準については正社員とのバランスに配慮することを要望しています。ただし、合理的な理由があるときはこの限りではないとしています。さらに、賞与や退職金、あるいは賃金決定に関する情報公開、苦情処理、正社員への転換制度の設定などを求めています。また、正社員と異なる職務を行なうパートタイム労働者に関しては、職務やそのレベル、職務遂行能力に見合った処遇を考えるよう求めています。「合理的な理由」については、「残業、休日出勤、配置転換、転勤がないまたは少ないといった事情」が例示されており、わが国の雇用の実態に配慮された内容であると云えるでしょう。
 こうした拘束性や責任の度合いは違っても、正社員と同様の仕事をしているパートは多くみられるわけですが、問題は、その場合の納得できる所定内賃金の水準がどれほどか、ということです。報告書によれば、パート、正社員、事業所に対する調査の結果、正社員の約8割(それぞれ78.9、77.7、77.8%)とされています。
 さて、多くの企業では、正社員については例えば職能資格制度とそれに対応した賃金制度の体系が構築されている一方、パートに関しては「時給いくら」が中心で、あとはせいぜい若干の昇給制度があるくらいで、パートに人事考課を導入して成績配分しているという企業はまだ少数派というのが実態ではないでしょうか。また、パートの時間あたり所定内賃金の実態は、正社員に較べて男性で5割強、女性で7割弱ということですから、報告書のいう「8割」とはかなりの開きがあります。こうした中で、「正社員とパートの処遇や労働条件の決定方式を同一に」というのは、かなり困難な話のように聞こえます。しかし、それは本当にそうなのでしょうか。
 私は、これは実は見た目ほどに困難な話ではなく、企業のやる気ひとつで十分に可能な話ではないかと思います。
 まず、パートの仕事を、各企業の職能資格制度(組合員で8〜10段階程度として)にあてはめてみれば、おそらくは下から2番めか3番めといったところではないでしょうか。実はこの報告書でも、こうした正社員とパートの職務レベルの違いを調整した格差を計算しており(女性のみ)、その結果はパートは正社員の8割弱という結果が出ています。つまり、所定内賃金だけであれば、今でもすでに「納得できる水準」である「8割」をほぼ達成しているのです。したがって、パートタイマーについては資格昇格がごく緩やかな(基本的にはない)新しいコースを設け、正社員と同じ職能資格制度をあてはめても、それで所定内賃金が大きく増加しないようにすることは十分可能なのです。
 さらに云えば、この「8割」という数字も、あまり固定的に考える必要はない、といえると思います。報告書がひいた調査では、仕事のほかに「勤続年数も同じ」という前提がおかれているからです。確かに、パートタイマーと同じ仕事をしている人は、おそらくそんなに勤続の長くない人であるでしょう。それでも、多くの場合、「下から2〜3番めの職能資格」を脱するまでには、少なくとも入社後5〜7年を要するものと思われます(大学卒の幹部候補生の場合は、最初から下から4〜5番めの職能資格に「付け出し」となることが多いようです)。したがって、パートタイマーの方が勤続が長いということは、あまりありそうもないと考えていいでしょう。この勤続の違いを考慮すれば、納得できる賃金水準は実は7割くらいではないかと推測できます。であれば、現状の「8割弱」は出来すぎた水準と云えるかも知れません(もっとも、年齢構成のようなものは調整されている数字かも知れませんが)。
 もちろん、職務や責任、拘束度なども含めて正社員とほとんど同じ、というパートもいることは事実であり、そういうパートについては、同じ職能資格制度を適用する以上は、それなりに上位の職能資格に位置づける必要があります。そもそも、こうした人にはそれなりの処遇を行なうことの方が正論であるわけであることは否定しにくいでしょう。それによって所定内賃金も上がるでしょうが、そういうパートはそれほど多数ではないというのも実態ではないでしょうか。報告書によれば、そのようなパートは全体の4〜5%に過ぎないということなので、全体で見ればその影響は大きくないと云えそうです。
 問題は正社員ならほとんどが適用を受けている賞与や退職金などの制度であり、これらの適用を受けているパートは全体のそれぞれ4割強、1割弱に過ぎません。もっとも、退職金に関しては、パートの多くが1年未満の有期雇用であることを考えれば、適用が少ないのも当然と受けとめることは可能です。
 これらに関しては、報告書は推奨する水準を具体的に示していません。「合理的な内容により…制度が設けられることが適切」としているのみです。
 それでは、まず退職金から「合理的な制度」を考えてみると、退職金は基本的に長期雇用奨励策なので、その趣旨からしても有期雇用のパートにはなじみにくいと云えるでしょう。したがって、仮にパートに退職金制度を設けるとしても、その水準は正社員より相当程度低いのが合理的と考えられます。所定内賃金でも8割程度で納得が得られる(退職勤続は勤続連動なので同一勤続の数字を使うべきでしょう)のですから、退職金ならさらにその半分、4割程度でも納得は可能ではないかと思われます。正社員が勤続1年で退職した場合の退職金は、企業によっても異なるでしょうが、自己都合退職ならゼロという企業も多いでしょうし、定年扱いであっても1ヶ月前後というところではないでしょうか。すなわち、1年契約のパートの退職金は、月間所定内賃金の0.4ヶ月分程度でも、そこそこ合理的といえるのではないでしょうか。これが6ヶ月契約になれば、0.15ヶ月分程度(年2回で0.3ヶ月分)でもいいということになるでしょう。多くのパートタイマーが年収100万円程度であることを考えると、これは年間で3万円程度に相当します。大きい金額とは云えませんが、わが国では勤続が短ければ退職金が少ないことはかなり広く認知されていますので、納得は得られるでしょう。すなわち、そんなに大きなコストアップなしでも退職金制度の導入は可能でしょう。あるいは、契約更新の場合はこれをストックしておいて、打ち切りの際にまとめて払えばそれなりにまとまった金額になったという感覚も得られるかも知れません。
 賞与についても、似たような計算ができます。まず、仮に正社員には年間4ヶ月の賞与を支払うとしたときに、実務の実態として多くの企業では職能資格の低い層には薄く、高い層には厚く配分しますので、パートが該当する下から2〜3番めの職能資格では、正社員はおそらく年間3ヶ月強くらいの賞与を受け取っていることになるでしょう。
 問題は、納得のいく水準が正社員のどのくらいか、ということになりますが、職務、責任、拘束度の違いに加えて、当期の業績に対する影響度の違いや、正社員には生計費的要素も考慮されることなどを考えると、所定内賃金の場合の「7〜8割」よりはかなり低くなるでしょう。まあ、ひとこえ半額、というところでしょうか。年間1.5ヶ月分、ということになります。
 かなりのコストアップですが、注意すべきなのは、すでに4割以上のパートが賞与を支給されていることです。これは旧労働省の平成11年就業形態の多様化に関する総合実態調査によるものですが、「正社員と同様ではない臨時の金一封」を支給されているケースが洩れている可能性があります。それも含めたパートの年間臨給は、旧労働省の平成12年賃金構造基本統計調査によれば、おおむね年間0.6ヶ月強となっています。要するに、年間1.5ヶ月分とは云っても、すでに0.3か月分は払われているのです。
 こうして考えてみると、報告書の要請する「均衡処遇」を実現するためには、企業にやる気があれば、パートの人件費が1割増くらいのコストで可能である、ということになるだろうと思います。企業全体で見れば、パートの人件費総額は正社員の人件費総額より相当少ないでしょうから、非常に大きなコストアップであるとまではいえないでしょう。報告書のいう「正社員も含め、多様な雇用形態における働き方や処遇のあり方全体を見直す」という考え方に立てば、正社員の処遇をわずかに下方修正するだけで、十分原資の確保可能と思われます。その一方で、それなりに正社員と同じ賃金体系に組み入れられ、小額であっても賞与や退職金が制度化されることがもたらすパートタイマーのモラルアップ、生産性向上効果は、けっこうなものがあるのではないかと想像されます。パートタイマー採用においても有利になるでしょう。これは企業にとって決して損な話ではないのではないでしょうか。
 なんだかんだ云ってみても、パートの均衡処遇は時代の趨勢ではないでしょうか。であれば、他に先んじて取り組むことにはそれなりのメリットがあるでしょう。そして、それは決して大きな困難をともなうものではありません。まさに企業のやる気ひとつなのです。

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