労働時間通算規定の見直しを(14.4.15)



 このところ、電機メーカーの中に、工場の操業停止などにともなって従業員を休業させる場合に、アルバイトなどの兼業を認めるケースが出てきました。この4月から三菱電機が「工場などが1週間以上休業する場合」に兼業禁止を解除したほか、すでに昨年秋には日立が半導体工場の長期休業者について例外的に認めています。沖電気は9月から制度化を検討しているとのことです。基本的には、いずれも原則的には兼業禁止のまま、例外的に認めるということですが、新しい動きであるといえるでしょう。
 わが国の企業では、多くの場合就業規則などで正社員の兼業を禁止しています。その理由はいくつかありますが、最大の理由は兼業によって疲労が残るなどして、安全の確保や業務の遂行に支障があるというものでしょう。場合によっては、兼業先に勤務するために時間外労働ができない、などということが起こる可能性もあります。さらに、たとえば同業他社との兼業によって、技術やノウハウなどが流出したり、企業秘密が漏洩したりすることが懸念されることも、兼業禁止の理由のひとつでしょう。バブル期にある住宅メーカーが週末だけ勤務する技術者を募集したところ、同業他社の社員が多数応募したという話もあるくらいですから、これは決して非現実的な話ではありません。
 そういう意味では、基本的に兼業が禁止されるのは正社員であり、有期雇用契約やパートタイマーなどの非正規雇用の場合には、必ずしも兼業を禁止しない企業もあるようです。たしかに、パートタイマーであれば労働時間も短く、兼業してもさほどの支障はないでしょうし、また、ノウハウの流出といった問題も少ないでしょう。要するに、長期雇用で、時間外労働もしっかりこなし、業務に専念することを求める社員であるから兼業を禁止するわけで、そうでない従業員まで禁止すべき理由はないわけです。
 しかも、正社員であっても、かなりの長期にわたって休業させるということになれば、たしかにその間は兼業を禁止する必要性はかなり小さくなります。機密保持などに関しては、別途同業避止の定めをすればいいわけです。
 すなわち、これから正社員一本槍の雇用慣行を徐々に改め、働き方の多様化を進めようとしているわけですから、兼業禁止についてもどんどん柔軟に考えるようにしていくことが求められているといえるでしょう。
 その上で、実務的に案外大きな障害になっているのが、労働基準法第38条が定める労働時間通算の原則です。これは複数の事業所で労働した場合に労働時間法制においては労働時間を通算するというもので、具体的には、ある日にA社で5時間、B社で5時間労働した場合は、通算して10時間の労働となるため、労働基準法の定める日当たり上限の8時間を超えた2時間には割増賃金の支払を要するというものです。もちろん、最低基準を定めた労働保護法であるわけですから、通算がその趣旨にあっているには違いありません。通算しないとするとある会社を便宜的にC社、D社に分けて、まずC社で6時間、続いてD社で6時間働いたという計上をすれば、割増賃金の支払が不要になってしまうという問題もあります。
 とはいえ、実務的には兼業している人の労働時間を正しく把握することはたいへん困難です。日当たりならまだしも、一週40時間の上限に関しては非常に難しいでしょう。さらに、割増賃金を兼業している2社のどちらがどれだけ負担するかという問題があります。ある会社で8時間就労してきた労働者がその後アルバイトをした場合、アルバイト先はすべての労働時間に割増賃金を支払わなければならないというのはいかにも理不尽です。そのうえ、労働基準法では時間外労働を行なわせるためにはその上限などを定めた労使協定(いわゆる36協定)を締結しなければならないとされていますが、兼業をしている人にはどのような上限時間を適用すればいいのか、という問題になると、もはや完全に実務の手には余ることになりそうです。
 他にも、たとえばA社からB社への移動中に災害にあった場合、これは通勤災害にあたるのか、あたるとしたらどちらの企業の通勤災害になるのか、という問題もあります。要するに、労働法制自体が、長期雇用の正社員をもっぱら念頭に作られており、そもそも兼業することがあまり考慮されていないのです。
 もちろん、悪用されないよう一定の配慮は必要でしょうが、働き方の多様化という時代の要請にこたえるためには、労働法制も長期雇用ばかりではなく、多様な働き方を前提に考え直す必要があるのではないでしょうか。通算原則の見直しもそのひとつではないかと思います。

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