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株主総会で、役員報酬を開示する企業が増えているそうで、6月28日付けの日経新聞でまとめた記事が掲載されていました。役員(取締役)賞与の総額は各社とも利益処分案の中で開示しているわけですが、役員報酬を開示しるケースはまだまだ少ないようです。 具体的な金額を見てみると、ソニーが取締役13人で10億8千万円、一人当たり約8300万円で、これは断然高く、他の企業を見ると新日鉄が一人当たり約2900万円、東芝が同2500万円、三井住友銀行が同2800万円となっています。三井住友は最高額も公表しており、これが4400万円だそうです。ちなみに三井住友の平均は昨年より約500万円下回っているとか。このほか、役員賞与は別途あるわけですが、現実にはソニーは若干の役員賞与(13人で9千万円)を利益処分に計上していますが、他の3社は役員賞与という陽気でもなく、役員報酬がそのまま年収ということになるようです。 ちなみに退職金の方も、ソニーは1人に2億円と破格の高額を支払っていますが、これは大物社外取締役に対するもののようなので、特殊事情もあるでしょう。その他は、日立製作所が一人平均約6000万円、NTTが同3300万円、クボタが同5000万円、東京電力が同7700万円、花王が同約1800万円、三井住友銀行が同約7900万円となっているとのことです。 これらはいずれも総額の開示で、取締役個人別の報酬を開示している例は、ゼロではないようですが、かなりまれなようです。取締役は株主の選任を受けて企業経営における重責を担うわけですから、株主に対してその報酬を開示すべきという考え方には十分が根拠がありそうです。その一方で、個人別の報酬については、やはり個人情報の保護という観点を大切に考えるべきで、少なくとも本人の同意なくして開示すべきではないように思われます。今般の商法改正で、定款の内容によっては取締役の報酬の開示が義務付けられましたが、これも総額の開示にとどまっているのも、同様の考え方と思われます。ソニーの株主総会では「株主オンブズマン」という総会屋まがいの団体が取締役個別の報酬を開示せよとの提案を行いましたが、さすがにこれは退けられました(意外にも4分の1以上の賛成を得たようですが)。 そこでこれらの報酬ですが、はたして高いのか安いのか、意見はいろいろあるでしょう。株主オンブズマンの発想は「一般サラリーマンや中小事業主に較べてなんと高いことか」ということかも知れませんが、もちろんこれはナンセンスで、当然のことながら役割や責任、業績、忙しさなどに見合ったものであるかどうかで考える必要があります。ちなみに、この記事は「『経営悪化への責任の取り方が不十分』との声もある」「多額の損失を計上し、株主資本を棄損しているのに、経営陣が十分な責任をとっていない企業も多いという」などと書いていますので、暗に「高い」ということをほのめかしたいのでしょう。 しかし、本当にそうなのかどうかは考えてみる必要がありそうです。 とりあえずソニーは除くと、新日鉄、東芝、三井住友銀行の3社で、平均で2,500〜2,900万円という金額がどうか、ということになります。これは役員報酬で、経営が好調ならこれに相当額の役員賞与が上積みされることは念頭に置いておく必要があります。 評価は難しいところですが、社員との比較でどうか、ということを考えてみると、これらの三社はただの大企業ではなく、わが国を代表する巨大企業、しかも鉄鋼、重電、財閥系銀行のトップクラスという伝統と格式のある企業ですから、部長クラスともなれば賞与含みの年収で1,600〜1,800万円程度にはなっているものと思われます。その下の次長クラスで1,300〜1,500万円、課長クラスでは1,000〜1,200万円といったところでしょう。これで業績がよければ100万円くらいは上積みされるかも知れません。いずれにしても、だいたい、1ランク上がると年収がプラス300万円というのが相場と云えそうです。 これに対して役員報酬ですが、これは社長、会長も含めた平均で、三井住友の最高額が4,400万円ということですから、ヒラ取は平均で2,000万円台の前半といったところでしょう。これに役員賞与が乗るわけですが、業績絶好調で今回の決算で過去最高益を記録した本田技研工業(組合員賞与も多額かつ変動することで知られる)でも、利益処分案によれば役員賞与は一人平均1,000万円程度ですから、まあ業績に応じて数百万円というところでしょう。 こうしてみると、役員になると年収が1,000万円くらいは上がるものと推測できそうで、これはそこまでの出世のステップに較べるとたしかに大幅といえるかも知れません。とはいえ、会社内で部長から役員になるのは非常に狭き門であることは云うまでもありません。日本労働研究機構の「ユースフル労働統計(2002)」には賃金構造基本統計による部長比率・課長比率が掲載されていますが、従業員1,000人以上の企業ではそれぞれ3.2%、8.0%となっています。これに対して、取締役は新日鉄が41人、東芝が16人、三井住友銀行23人ですから、コンマ数%オーダーです。単純には言えないでしょうが、この数字を見ても、課長が部長になるより部長が役員になるほうが相当程度難しいことは容易に推察できます。しかも、上の職位に行くほどトップクラスでの熾烈な競争が行われているわけです。課長と部長の格差が600万円であれば、部長とヒラ取の年収の格差が1,000万円というのはそれなりにリーズナブルなものだとは言えないでしょうか。しかも、役員賞与は業績による変動が大きいですから、この1,000万円という格差は、業績によって拡大する可能性もありますが、縮小するリスクもあるものです。こうした変動リスクの大きさも、水準が高いことの理由のひとつになるはずです。 ましてや経営トップということにもなれば、人にもよるでしょうが、時間的には自由時間をほとんど持てないような拘束度、場所的にも世界中を飛び回り、なにより仕事面ではきわめて大きな責任を負って、強烈なストレスとプレッシャーにさらされる仕事です。いろいろな費用が会社の経費で落ちるなど、役員報酬以外の恩恵がなにかとあるとしても、三井住友銀行の頭取?が4,400万円というのは、サラリーマン経営者として業績の問題は抜きにした仕事そのものの報酬として考えて、どちらかといえば控えめな水準ではないでしょうか。 こうして考えると、この役員報酬をとり上げて「業績悪化の責任をとっていない」というのは、いささか過酷に失する意見ではないかと思います。もちろん、経営陣みずからが役員報酬を返上、返納するという形で責任を明確化することも、場合によっての選択肢としてはあるわけですが、役員報酬が一定の役員賞与の受け取りを前提として、なおそれなりにリーズナブルな水準に設定されている以上は、基本的には経営成績に応じた役員賞与とすることが報酬面での経営責任をとることであると考えるべきでしょう。であれば、新日鉄や東芝、三井住友銀行は役員賞与がゼロなのですから、それなりに責任を取っていると言えるのではないでしょうか。日本の経営陣は、バブルの好況期においても、アメリカの一部企業のCEOのように、破廉恥な高額報酬を受け取っていたわけではありません。経済環境がこれだけ悪い中にあっては、業績を改善せよ、増配せよと言ってもおのずと限界はあるわけで、それにもかかわらず役員報酬まで減額せよとの主張は、いささか均衡を欠くように思われます。 これ以上のことは一介の実務家にはよくはわからないのですが、逆に言えば、それ以上の経営陣の責任は、役員報酬の減額などという手段ではなく、むしろ出処進退によって明らかにされるべきものではないでしょうか。バブル景気の前までは、赤字どころか減益でも引責辞任(表向きそう言ったかどうかはともかく)した経営トップもいました。もちろん、現在のような異常事態においても同様に考えることはできないでしょうが、役員報酬を返上するよりは、退陣してけじめをつけるべきケースの方が多いのではないでしょうか。 |