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経済産業省の外郭団体の独立行政法人経済産業研究所が、「動け!日本 日本の優秀企業研究」の中間報告を発表しました。これは「エクセレント・カンパニー・プロジェクト」と呼ばれているとのことで、厳しい経済環境下でも良好な成果を挙げている日本企業30数社をサンプルとして、その特徴を明らかにしようというものです。サンプル企業は中長期(1984年以降)の経営指標、特に利益率を重視して抽出したとか。調査方法は経営者や従業員などからの聞き取りが中心のようです。 利益が上がりさえすれば優秀か、という議論はあると思いますが、少なくともその必須の条件ではあるでしょう。報道によれば、そのうち特に参考になると考えられるのはキヤノン、花王、マブチモーター、信越化学、任天堂、ヤマト運輸、シマノ、本田技研、セブンイレブンの9社で、これらについては別途詳細な報告が出される予定とのことです。現状では要約のみが公表されていますので、今回はこれを見ていきたいと思います。 まずは競争力を「オペレーション効率(工場、現場)」と「経営能力(本社機能、戦略策定・実施能力)」に二分し、基本的な問題は後者にあるとして後者に重点をおくという前提をおいています。その上で、見出された観察結果として、優秀企業は「必ずしも成長産業とは限らない」「必ずしも国際競争産業とは限らない」としています。また、「いわゆる米国型の指標や経営手法を取り入れているかどうかは無関係」という結果も紹介されており、このあたりは従来世間で主張されている内容とは若干異なる結果となっているようです。 その上で、優秀企業に共通する特徴として、6点があげられています。 第一には、取り組む事業を、社長が現場の実感をもとに「わかる」範囲に止めていることだといいます。その一方、持株会社は必ずしも効果的でなく、また、長期経営計画などの策定に力を入れているかどうかは無関係という結果が出ているそうです。単なる「選択と集中」ではなく、「社長がわかる範囲」ということが大切だということで、逆に言えば、社長がわかる範囲であれば新規事業分野への進出も積極的に取り組んでいいということではないでしょうか。報告は妙に「やらない」「やめる」を強調していますが、やらない、やめるはやる、やめないの裏返しに過ぎないわけなので、できればポジティブな表現にしてほしかったように思います。まあ、ネガティブの方がサプライズがあるということかも知れませんが。 第二には、コンサルタントの意見の無批判な導入や同業者のまねではなく、常識を疑って考え抜いている、ということがあげられています。報告書はこれを「ロジカルである」と表現していますが、現実には必ずしも論理だけではなく直感の部分もあるのだろうと思います。 第三が面白いところで、傍流を経験した経営トップ、ということを指摘しています。「既存事業やその時点の中心事業にしがらみがない」とか「中心の外から来たので不合理な点がよく見える」という理由が推定されています。確かに、最近は「傍流の社長」が流行している感があることは事実ですが、その理由については、「傍流においても活躍し、社長候補となるだけの優れた力量」があるからだ、と単純に考えた方がいいのではないかという気がします。名をあげられた優秀企業においては、おそらく幹部候補は一貫して「主流」や「本流」を歩むといった単純なキャリア形成は行なわれておらず、優秀な人材ほど海外駐在や傍流部門を経験させつつ大きく育成していくという方針がとられているのではないでしょうか。アクシデンタルな部分を強調するのはいささかジャーナリスティックにに過ぎるような感じを受けます。 第四は、危機を逆にチャンスに結びつけたり、あるいはあらかじめ常に社内に危機感を植え付けている、という点があげられています。いずれにしても危機に強いのが優秀企業だ、ということでしょう。これは危機に弱ければ優秀企業になれないということの裏返しなので、当然といえば当然です。ただ、常に危機感を持つことで危機に強くなる、という逆説的な意外性があります。 第五番めには、「身の丈に合った」成長をはかるということがあげられています。キャッシュフローの範囲内での事業展開ということで、要すれば堅実経営ということでしょう。昨今、積極的にリスクを取って事業展開すべしとの主張が多いわけですが、それは優秀企業の現実とは異なっているということになりそうです。また、第一の指摘と同様、必ずしも単純な「集中と選択」ではなく、キャッシュフローの範囲内なら積極的に新規事業分野に打って出よとの含意もあり得るように思います。 最後は、企業内に経営者と従業員を律する持続性のある規律の文化が埋め込まれている、ということで、目先のカネではなく使命感や倫理観が結局は企業を長期的発展に導くということだそうです。これはいわゆる「ビジョナリー・カンパニー」ということになるのでしょうか。 以上の記述のあとに、報告要約はその全体を「結局、最後にたどりついた優秀企業のイメージとは、『愚直に、まじめに、自分が分かる事業をやたら広げずに、きちんと考え抜いて、情熱をもって、取り組んでいる企業』というまっとうなものであった。」と引き取っています。 この報告書からわれわれ労務屋が学びとらなければならないのは、これら9社の多くが長期雇用を重視し、いわゆる従業員重視、人間尊重の経営を行っていることを再確認することでしょう。人事管理においては、成果や能力を重視した処遇を行う一方で、従業員の雇用を維持し、再教育を徹底することを通じて、カメラからOA機器、さらには半導体製造装置へと事業分野の拡大させてきたキヤノンが代表例といえるでしょう。そもそも、経営者だけではなく、従業員までもが「愚直に、まじめに、…きちんと考え抜いて、情熱をもって」ということを共有するには、単に報酬だけでは無理であり、その企業に働く誇り、働き甲斐、そして企業との一体感が必要であること、すなわち長期雇用のもとでの従業員重視の経営を前提としなければならないことは、比較的わかりやすいのではないかと思います。 このところ、経済産業省は長期雇用の見直しに躍起になっている感がありますが、こうした調査結果をふまえて適切な方針転換をはかってほしいものだと思います。 |