有期雇期間延長は労使双方にメリット(14.10.31)



 きのう(10月30日)付朝刊各紙によれば、厚生労働省は有期契約期間の上限について、現行の「原則1年、例外3年」を「原則3年、例外5年」に緩和する方針を固めたそうです。
 有期契約期間の上限については、民法では5年とされていますが、永らく労働基準法で1年に規制されてきました。これが平成10年の労基法改正で、平成11年4月から現行の「原則1年、例外3年」に緩和されましたが、3年が許される例外が、博士過程修了者、修士過程修了者で3年以上の実務経験がある者、公認会計士、医師、弁護士、一級建築士などのレアなエリート資格の有資格者、あるいは特許発明の発明者で5年以上の実務経験ある者などのきわめて限られた対象者について、しかも「新たに」雇い入れる場合に限られており、きわめて使いにくい(というか、事実上の禁止に近い)規制となっていました。さすがにこれはあまりに使いにくいということで、この2月には若干の規制が緩和され、修士課程修了者の必要経験が2年に短縮され、特許発明の発明者などの実務経験規制が撤廃されたほか、システムアナリスト・プロジェクトマネージャ・アプリケーションエンジニアといったIT系技術者試験合格者、アクチュアリー(年金保険料の算出などを行う保険数理の専門職)試験合格者などが追加され、さらには一定の学歴および経験を有する一部の技術者・システムエンジニア・システムコンサルタント・デザイナーで「年収が575万円以上」の者などが追加されました。規制の適用基準に「年収」を採用するのはまだあまり多くなく、注目されましたが、それでもなおあまり使いやすいものにはなっていないのが現状と言えるでしょう。ちなみに、日経新聞は例外の対象者を「博士号取得者」などとしていますが、博士課程修了者と博士号取得者とは違うのではないでしょうか?
 そこで、政労使それぞれの言い分を見てみますと、日本経団連はもともと民法の定めるとおり一律に5年への延長を主張しており、派遣労働の期間延長と、裁量労働の範囲拡大とあわせて「三点セット」といわれるくらいに繰り返し要請してきているわけですが、それではその理由はというと、すでに規制と実態との乖離が明々白々になっている他の2つに較べ、実はあまりはっきりしません。一応、有期雇用契約ならば使用者だけではなく労働者の側にも期間満了まで勤務する義務が発生するので、中長期のプロジェクト単位での雇用が可能になり、雇用形態の選択肢が拡大する、というのがひととおりの理由とされています。とはいえ、仮に労働者が途中で契約を一方的に破棄して退職したとしても、使用者はそれによる損害賠償を求めることができるにすぎず、実務的にはそれもそれほど容易ではありません。要するに、昔々のような「足止め」が起きる危険性はほとんどないわけです。むしろ、3年契約をしてしまうと、3年過ぎるまで雇い止めができないというリスクの方が大きいというケースの方が多いかもしれません。であれば、1年契約を2回更新して3年にした方が有利、というのが実務感覚ではないかと思います(1年契約で反復更新を繰り返した場合には「実質的に期間の定めのない雇用に転化」したとみなされるリスクがあるわけで、これを回避できるというメリットはあるかもしれませんが)。むしろ、1年契約より有利な条件を提示し、より優れた人材を確保するというメリットが増すと考えるべきなのでしょう。
 ところが、これに対して連合は、「正社員の雇用代替、不安定雇用の増加につながる」として、規制の緩和に反対してきました。平成10年改正の際にも反対でしたし、今回もこの厚生労働省案に対して「新卒者を正社員ではなく契約社員として採用する企業が増える」との懸念を示しているそうです。
 そこで、厚生労働省の見解はというと、日経新聞によれば「多様な働き方を認め、企業が社員を採用しやすくなる」ということだそうです。ちなみに見出しにも「厚労省、雇用拡大へ延長」となっています。読売新聞はというと、「有期雇用社員の雇用安定を図りたい考え」だ、と報じています。面白い食い違いですが、おそらくは両方ともあるのでしょう。いずれにしても、やはり経営サイドよりは労働サイドにメリットのある内容のように思えます。
 もっとも、これによって、日経新聞の見出しのように雇用が目立って拡大するかどうかは、これはかなり疑わしいように思います。雇用形態の如何にかかわらず、企業の仕事の量が変わるわけではなく、したがって必要な人員数も大きくは変わらないはずだからです。もちろん、正社員が残業で対応するかわりに有期雇用を入れて、正社員の残業を減らすということになれば、これはたしかに有期雇用の分は雇用が増えています。一種のワークシェアリングといえるでしょう。しかし、それによって増える分はそれほど多くないでしょうし、そもそも、1年契約で対応できる部分については、すでに対応済ということになっているでしょうから、今回の規制緩和による雇用拡大効果はそれほど多いとは考えにくいと思います。
 連合の懸念も、今回の規制緩和に関してはそれほど当たっているとはいえそうもありません。そもそも、連合が「正社員=安定雇用=善」「有期雇用=不安定雇用=悪」という素朴な価値観を強固に信奉していることが、本当に働く人の期待に沿っているのかどうかにも疑問がありますが、それはそれとして、有期雇用による正社員雇用の代替は、すでに、1年以下の有期雇用によるものがどんどん進んでいるわけです。こうした中で、1年契約では代替できないが、3年契約なら代替できる、という雇用がどれほどあるかといえば、それほど多くはないのではないでしょうか。これは、さきほど見たように、経営サイドのニーズもそれほど強いわけではないことの裏返しです。また、「新卒者を正社員ではなく契約社員として採用する企業が増える」との懸念も、いささか実情に即していないように思われます。新卒であってもなくても、企業は正社員が必要であれば正社員を採用し、有期雇用が必要であれば有期雇用で採用します。今回の規制緩和で起きるのは、「正社員か3年契約か」という選択ではなく、「1年契約か3年契約か」というケースが圧倒的なはずです。
 であれば、同じ3年でも、「1年契約を2回更新」に較べて、「3年契約」は安定している分有利なわけですから、こうした有利な選択肢が増えることは、働く人にとっては歓迎すべきことなのではないでしょうか。
 企業にしてみても、実務的には、3年契約でいける仕事であれば、3年契約にした方が更新手続きの手間がはぶけるとか、働く人もやる気が高まるとかいったメリットが期待できます。案外、今回の規制緩和の効果は、正社員を3年契約に代替するよりは、1年契約を3年契約に代替する方向に働くかもしれません(いずれにしてもあまり大きくはないでしょうが)。。
 こうしてみると、有期雇用の上限延長は、雇用拡大や正社員代替への効果は限られており、むしろ、厚労省のいうように「有期雇用社員の雇用安定」が図られるチャンスの方が大きいと考えられそうに思います。これは労使双方にメリットのある、規制緩和の好事例になりうるのではないでしょうか。

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