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今年の6月20日、政府の男女共同参画推進本部が、「女性のチャレンジ支援策の推進について」を決定しました。その中で、積極的格差是正措置(ポジティブ・アクション)について、「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度になるよう期待する」との数値目標が導入されました。現状を考えるとなかなか意欲的な目標ですが、その後、この数値目標は、経済財政諮問会議の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(いわゆる「骨太の方針第3弾」)にも織り込まれていますので、本気で取り組んでいくということでしょう。 さて、こうした動きが報道されるなかで、国連開発計画(UNDP)が発表した「HDI」「GDI」「GEM」という指標がしきりに取り上げられたことをご記憶の方も多いと思います。これらはそれぞれ、人間開発指数(Human Development Index)、ジェンダー開発指数(Gender-Related Development Index)、ジェンダー・エンパワーメント指数(Gender Empowerment Measure)というもので、本年版の男女共同参画白書によれば、HDIは「基本的な人間の能力がどこまで伸びたかを測るもの」、GDIは「HDIと同じく基本的能力の達成度を測定するものであるが,その際,女性と男性の間でみられる達成度の不平等に注目したもの」、GEMは「女性が積極的に経済界や政治生活に参加し,意思決定に参加できるかどうかを測るもの」という説明がされています。白書は2002年のデータをもとに、わが国はHDIが測定可能な173か国中9位、GDIが同146か国中11位とまずまずのポジションにあるにもかかわらず、GEMは同66か国中32位と大きく落ち込んでいることを問題視しています。ちなみに、この7月に発表された2003年の結果を見ると、わが国のポジションは、HDIは9位と変わらないものの、GDIは13位と後退、問題のGEMは44位とさらに大幅に後退しています。UNDPが報告書本文のなかでわざわざ「ナミビア、ボツワナが、イタリア、ギリシャ、日本を上回った」とコメントしているくらいですから、これはかなり不名誉な事態であると考えられているのでしょう。 もうすこし詳しく見ていきたいと思います。HDIはの評価項目と使われるデータは次のとおりで、「知識」だけは2種類のデータが使用されます。 1)長く健康な人生=平均寿命 2)知識=成人識字率および初・中・高等就学率(日本では高校までに該当) 3)それなりの生活水準=1人あたりGDP 具体的な計算方法は、各データについて世界の最高基準と最低基準が設定されており、(各国の数値−最低基準)/(最高基準−最低基準)という計算によって、各国の世界の中での位置づけの指数を求め、それをウェイトづけして平均してHDIを得ます。各データの最高基準・最低基準・ウェイトは次のとおりです。 1)平均寿命:85歳、25歳、3/9 2)成人識字率:100%、0%、2/9 初・中・高等就学率:100%、0%、1/9 3)1人あたりGDP:40,000ドル、100ドル、3/9 いずれも、一国を総合的に評価するデータとしては代表的なものでしょうし、多くの国で比較可能なデータを得るという観点からも適当なのだろうと思います。結果をみると、2003年の首位はノルウェー、以下アイスランド、スウェーデン、オーストラリア、オランダと続き、米国は7位、日本は9位となっています。もっとも、指標の数値を見ると、首位のノルウェーが0.944に対し、米国は0.937、日本は0.932と差はごくわずかで、21位のイタリアでも0.916と、主要先進国は狭いレンジにひしめいており、このあたりまでは順位にこだわるのはあまり意味がないかもしれません。ちなみに韓国は0.879で30位、中国は0.721で104位となっています。 GDIは、採用されている評価項目と使用されるデータ、およびそれぞれのウェイトづけはHDIと同じで、全体のレベルの高さに加えて、それが男女間でいかに等しく実現されているかが加味された指標です。 具体的には、まずHDIと同じデータを同じ方法で、男女別に指数を計算します(平均年齢については、最高・最低基準が男女別に設定されており、女性はそれぞれ87.5歳と27.5歳、男性が82.5歳と22.5歳となっています)。そして、 1/[(1/女性の指数)×女性比率+(1/男性の指数)×男性比率] という計算式で「平等分配指数」を計算します。あとはHDIと同じウェイトで平均すればGDIが得られるということのようです。 比較的シンプルで優れた計算方法だろうと思いますが、ジェンダー格差に対するペナルティが項目ごとに計算されるため、たとえばわが国のように、所得は男性のほうが高いが、平均寿命は女性のほうが相当(基準値の差である5歳を上回って)長いという場合は、ジェンダー格差が過大評価されてしまう傾向があるのではないかと思います。 2003年の結果をみると、1位から4位まではHDIと同じで、5位から8位までも順位が入れ替わっているだけで国の顔ぶれはHDIと同じです。米国は5位、日本は13位ですが、こちらも上位国については、首位のノルウェーの0.941に対してやはり21位のイタリアの0.910までは僅差で並んでおり(日本は0.926)、各国によるジェンダー格差の違いはそれほど大きくはないと見るべきでしょう。なお、韓国は0.873でやはり30位です。中国は0.718で83位となっていますが、GDI36位から105位までの間には測定不能な国が19か国ありますので、中国が格別ジェンダー格差がないというわけではなさそうです。 さて、次に問題のGEMですが、これは評価項目や使われるデータがまったく異なっており、次のとおりとなっています。 1)政治参加=国会議席の性比 2)経済参加=議員・上級公務員・管理職の性比および専門職、技術者の性比 3)収入=推定勤労所得の男女比 こちらも経済参加のみデータが2種類となっています。性比については現実の人口の性比を用いて、GDIと同様の手法で指数化されます。ウェイトはそれぞれ1/3となっています。 したがって、GEMはほぼ各国におけるジェンダー格差のみに着目した指標であると考えられます。たとえば、収入については、女性が年収3万ドル、男性が5万ドルという国より、女性が年収95ドル、男性が105ドルという国のほうが高く評価されることになります。 2003年の結果はどうでしょうか。それでも、上位3か国は、1位と2位が入れ替わっただけでHDIと同じ顔ぶれです。HDIの上位21か国についてみても、フランス、ルクセンブルクが計測不能となっているほかは、日本とイタリアが脱落しただけで、あとの顔ぶれは17位まで同じです。 報告書の指摘した国をみると、イタリアは32位(HDIの順位は21位)、ギリシャは40位(同24位)、そして日本は44位(同9位)です。ナミビアは29位(同124位)、ボツワナが31位(同125位)となっています。これは、日本などが遅れているというのもさることながら、ナミビア、ボツワナ両国の健闘ぶりこそ特筆されるべきでしょう。HDI順位が3桁の76か国のうち、計測可能なのは11か国しかないのですから、そもそもこれらの男女別データがある、というだけでも立派なものなのかもしれません。ちなみに、韓国は計測可能な70か国中で63位という低迷ぶりで、中国は計測不能となっています。 しかし、数値を見てみると、HDIやGDIとはまた違った状況が目につきます。1位のアイスランドが0.847なのに対し、17位の英国は0.760となっており、先進国間でもかなりの格差がみられます。日本は0.515とさらに大きく水をあけられていますが、ナミビア、ボツワナは0.578、0.564で、これらを含めて計測可能な70か国中24位から47位までの24か国が0.5台に集中しています。2002年の日本は32位で、2003年は大幅に後退したとの報道もなされましたが、このようなダンゴ状態では当然起こりうる変動だったといえるでしょう。 もうすこし内容を見てみると、日本の場合は特に「政治参加」が低く、10%でHDI上位21か国中最下位ととなっています。同21か国中14か国が20%超、さらに8か国は30%を超えていますから、日本の遅れが目立ちます。もっとも、これは総選挙の結果によっては短期間で大躍進する可能性もありますから、日本はそれなりの潜在力があるといえるかもしれません。 次に「経済参加」をみると、上級公務員および管理職比率については9%とやはりかなり低いのですが、もうひとつの専門職・技術者比率比率は45%とまずまず健闘しています(もっとも、これはHDI上位21か国では43%〜57%の狭いレンジで収まっていますが)。また、くら「収入」についても、日本は0.45と低いことは低いのですが、HDI上位21か国(計測可能19か国)のうち5か国が0.45以下であり、最高も0.71なので、政治参加ほどの遅れではないようです。 いずれにしても、HDIが高い国はGEMが高い傾向があることは明らかで、ナミビアやボツワナとの比較もさることながら、HDI9位の日本がGEM44位ということ自体が明らかに不自然であると考えるべきでしょう。 もっともこれは、女性の人間開発がかなり進んでいるにもかかわらず、社会での活躍が進んでいないということですから、もったいない話だと思わなければなりません。ということは、当然のことながら、逆にいえば優れた女性に能力に見合った権限を付与していくことで、さらに社会全体の生産性を高めていく余地が相当大きいということでもあるでしょう。 議席と違って、管理職や勤労所得はなかなか急には変わらないでしょうが、企業としても中長期的な視野をもってポジティブ・アクションに取り組んでいく必要があるものと思います。 |