派遣法改正を考える(15.7.17)



 労働者派遣法については、従来から、働き方の多様化などの観点から規制緩和が要望されてきましたが、今国会で改正法案が成立し、派遣労働の活躍の場が広がることになりました。
 今回の主な改正点を見てみると、まず派遣期間については、専門性の高い業務を中心としたいわゆる「26業務」については上限を撤廃、それ以外の一般派遣についてはこれまでの上限1年を上限3年に延長(ただし、1年を超える場合は期間について過半数労組または過半数代表者の意見聴取)するとされました。これまでは1年ないし3年が上限とされ、それを超えると派遣先企業・派遣社員ともに継続就労を希望しているにもかかわらず打ち切らなければならないという理不尽が起きていたわけですが、これがかなりの程度緩和されることになります。派遣先・派遣社員双方にとって歓迎すべき規制緩和といえましょう。
 さらに、上限を超えて同じ派遣社員を継続して使おうとする場合は、「雇用契約の申し込み」を行なうことが義務づけられました(しかも、違反した場合は企業名を公表するというペナルティ付きです)。派遣社員から直接雇用に移行させようというわけです。派遣社員のほうは、派遣のままでいたければいられるし、直接雇用になりたければ申し込みを受ければいい、ということになるわけです。
 問題は、申し込みの内容ですが、フルタイムで期間の定めのないいわゆる「正社員」としての雇用を申し込まなければならないということになると、企業としてもそこまでのニーズはないケースが多いでしょうから、やはり3年で泣き別れ、という事態が発生しそうです。このあたりはまだはっきりしないらしいのですが、とはいえ、派遣社員の中にはフルタイムでない人も多いわけなので、必ずしもフルタイム正社員でなければならないということはないでしょう。これが有期雇用でいいということになれば、企業にとってはフレキシビリティは維持できますし、コスト的にも決して派遣はすべて安いとはいえないので、案外直接雇用への移行も進むのかもしれません。規制緩和する以上は、それとのバランスで派遣先も一定の責任を負うことも必要でしょうから、まずまず妥当なところではないでしょうか(ただし、労組の介入を制度化したのがいいかどうかは疑問が残りますが)。
 次の改正点は、物の製造の業務への派遣が解禁されたことです。これに関しては、すでに請負などの形態で、事実上の派遣が行なわれてきたことは周知の事実でした。こうしたグレーな実態があることが、かえって責任関係をあいまいにするなど、トラブルの元になってきたことは否定できないのではないでしょうか。これは労災事故ですが、この4月には、埼玉県の製造業者で、請負契約で行なわれていた作業が実態としては派遣であるとみなされ、派遣先が労働安全衛生法違反を問われたケースも出ています。そういう意味で、現実を現実として受けとめ、実態にあった規制緩和が行なわれたことは、労使双方にとって好ましいといえましょう。ところが、なぜかこれに関しては「今後3年間は派遣期間の上限は1年」という規制が付け加えられました。
 そもそも、「物の製造の業務」への派遣が禁止されていたのは、「常用雇用代替が拡大することで、技術・技能の継承が困難となる」という理由のはずでした。こんにちでは製造の現場もかつてのような旋盤、ボール盤といった汎用機は珍しくなっていますから、たしかに短期間で次々職場をかわるのでは技能の蓄積は難しいでしょう。しかし、物の製造の業務のすべてが、長期雇用で「技術・技能の継承」が必要なわけではなく、現に有期雇用などでは多数従事しているわけです。したがって、これは派遣を全面的に禁止する理由にはならない、技能の継承が必要な仕事については禁止しなくても企業は派遣に代替しないはずだ、というのが規制緩和を主張する理由でした。これが、先行する実態を追認する形で認められたわけですから、期間についてもこれだけ1年にとどめる理由はないはずです。
 まあ、3年間の時限措置だし、激変緩和だ、ということなのでしょうが、3年後には確実に上限3年への延長をお願いしたいものです。
 もうひとつ注目すべきなのは、いわゆる「紹介予定派遣」について、事前の面接などが可能とされたことです。実態としてどれほど守られているかはわかりませんが、これまでは派遣については「その仕事ができることを派遣元が保証しているのだから、派遣先は具体的に誰が派遣されるかについてはどうでもいいはずだ」という原理主義的な発想で、事前の面接や履歴書の送付などの「派遣労働者を特定する行為」が禁止されていました。さはさりながら、実務担当者にしてみれば、そうは言っても単にその仕事ができるというだけではなく、たとえばチームワークで仕事をする以上はそれなりにその組織との相性のようなものをあらかじめ推測してみたいとかいったニーズはあるものです。
 とりわけ、常用雇用、とくに正社員としての採用を念頭においている場合はなおさらのはずであり、今回紹介予定派遣に関して事前の面接等が認められたことは、実務家としては一歩前進といえると思います。今後さらに、一般派遣等についても、事前に派遣予定者の人物を確認できるようにしていくことが望ましいのではないかと思います。理念や建前はどうあれ、派遣開始後に「この職場とは合わない」となるよりは、派遣前にある程度相性を確認できたほうがいいと思うからです。派遣社員・派遣先ともに、お互いなるべく多くの情報があったほうが、よりよいマッチングの実現に近づくということはいえるのではないかと思います。さらに、より原理原則論をいえば、そもそも「この仕事ができる」ということのみに着目することを求めるのは、かえって個人の個性を否定し、働く人を「モノ」扱いする発想であるとも考えられるのではないでしょうか。
 こうした論点を考えてみると、依然として「長期雇用こそが良好な雇用であり、派遣は不安定雇用であって好ましくない」という画一的な発想が目立つように思われます。もちろん、一般的にはそういう傾向があるであろうことは否定はしませんが、しかし一律にこうした発想をあてはめることも実態を無視しているのではないでしょうか。
 とりわけ、物の製造の業務への派遣解禁に対する労組(連合など)の抵抗ぶりなどをみると、派遣労働者を組織していない(組織しがたい)労働組合の組織防衛なのではないかという感を禁じ得ません。しかし、働き方の多様化が進む趨勢の中では、「派遣=不安定雇用=悪」といった画一的ステロタイプの考え方ではなく、派遣労働を労働力の重要な一分野と位置づけたうえで、その組織化に取り組むことこそが現在の労組に求められているのではないでしょうか。
 今回、派遣期間の上限の決定にあたって労組の関与が制度化されました。ここで労組はどのように関与していくのか。既存組合員の利益を守るために派遣を排除するのか、派遣も働く人の一員として組織化にとりくむのか。案外、今後の労働運動を占うひとつの試金石なのかもしれません。

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