兼業禁止にはわけがある(15.7.3)



 先月23日、愛知県新城市の東名高速道路で、大型トラックが渋滞の列に突っ込み、4人が死亡、13人が負傷するという事故がおきました。この大型トラックの運転手は、きのう業務上過失致死傷の容疑で逮捕されましたが、勤務先の運送会社以外に運転代行会社でアルバイトをしていたことから、道路交通法違反(過労運転等の禁止)も視野に入れて調べられているとのことです。事故直前の就労状況は、21日(土)の午後7時30分から22日(日)の午前2時半まで運転代行会社でアルバイトをし、23日(月)は午前1時から運送会社で勤務して、午前11時ころに事故発生ということのようです。日曜日にどれだけ休養しているかにもよるでしょうが、たしかに過労運転が疑われる状況ではあります。
 道路交通法では、過労運転だけでなく過労運転の容認も刑事罰をもって禁止しています。この5月14日には三重県の津地裁で、昨年8月に三重県鈴鹿市の東名阪自動車道で起きた類似の事故(5人死亡・6人重軽傷)について、運転手の上司である営業所長と係長に対し、過労運転の容認を認める判決が出ています。さらには、状況によっては運送会社も運行管理責任や使用者責任を免れないこともあるでしょう(もっとも、現実に責任を問われたケースは多くはないようです)。ちなみに厚生労働省は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を定めており、これによると原則的に貨物自動車運送事業に従事する自動車運転者の運転時間は1日9時間、連続運転は4時間以内とされています。
 鈴鹿市のケースは、その運送会社が運転手に連続して長距離運送に従事させ、この基準を大幅に逸脱しているにもかかわらずさらに大阪市と茨城県の日立市を2往復するという長距離輸送に従事させたというかなり悪質なケースであり、刑事責任を問われることも当然でしょうが、今回の新城市のケースは、「アルバイトによる過労」の可能性があるという点が注目されるところです。
 この運送会社では、就業規則上兼業を認めていませんでしたが、運転手は無断でアルバイトに従事していました。安全確保のために兼業を禁止することは、この事故を見るまでもなく妥当なことであろうと思うのですが、このケースのように無断でアルバイトをされたのでは、それを把握しようがありません。兼業を禁止しているにもかかわらず、無断でアルバイトをしていたという状況であっても、過労運転の容認や運行管理責任・使用者責任を問われるということになると、これはいささか重きに失するように思われます(とりあえず、現時点では今回のケースは過労運転の容認は追及されていないようですが)。
 さらに、労働基準法第38条は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と定めており、しかも通達でごていねいに「事業主を異にする場合をも含む」としています。となると、問題の勤務がそうかどうかは別として、運送会社と運転代行会社での労働時間が通算で8時間を超える可能性があり、その場合はいずれかの事業主が割増賃金の未払いということで刑事罰付きの労働基準法違反に問われる可能性があるということになります(さらには、これまた刑事罰付きの規制である36協定の上限超過をどう考えるかも大きな問題です)。この運転手は、運送会社は週休2日で平日のみの勤務だったそうですが、アルバイトは週末だけでなく週に3、4日出勤していたそうですから、日によっては労働時間が通算で8時間を超えていた可能性は高そうです。
 これは運送業者にかぎらず、ほぼあらゆる業種で起こりうる事態です。従業員が無断でアルバイトをした場合、把握はほとんど不可能であるにもかかわらず刑事罰付きの法違反となりうるというのは、まことに理不尽であり、これでは企業が就業規則で兼業を禁止したくなるのも致し方のないところではないでしょうか(さらに、企業にとっては外部のコントロールできない要因によって、所定労働時間内にもかかわらず25%増の賃金を払わなければならなくなるという理不尽も発生します)。
 ところが、この就業規則の兼業禁止規定、最近いささか評判が悪いのです。昨年、電機各社において、労働時間を短縮して賃金を引き下げるいわゆる『緊急対応型ワークシェアリング』が行なわれた際に、一部で従業員の減収をアルバイト等で補うことを可能とすべく、企業が兼業禁止規定を解除した例もあったことは周知のとおりですが、それだけではありません。
 たとえば、リクルートのワークス研究所の研究誌「Works」の1999年6月・7月号では、「自営業を促進する施策『8つの提言』」ということで、同研究所長の大久保幸夫氏が、「サラリーマン時代に副業として自営業を経験しておく、いわゆる「ムーンライター」を認めることが自営業促進策として有効である。主には企業の就業規則に見られる兼業禁止規制の撤廃が対策となる」と主張しています。また、昨年2月に開催された社会経済生産性本部のシンポジウムでは、デジタルデバイドの問題に関連して、ニッセイ基礎研究所の小豆川裕子主任研究員が、「横断的な人材再配置策、柔軟な雇用形態、雇用創出策が必要。例えば、企業就業規則の「兼業禁止」を取り除くことで、他社でも働ける、起業を起こすなど付加価値が生まれる。」と述べています。どうやら、兼業禁止規定について、「長期雇用慣行下で、企業が自社のみに滅私奉公させるための規定」(まあ、そういう意味も多々あるでしょうが)であるという理解だけが広がっており、その背後にある法的問題点が認識されていないようなのです。
 それでは、兼業禁止規定を廃止するにはどうしたらいいのでしょうか。簡単なのは労基法38条を廃止することですが、そうすると同一事業主が同一労働者を午前はA事業所、午後はB事業所などと異なる事業所で労働させることによって割増賃金の支払を免れようという脱法行為が横行しそうです。それを防ぐためには、形式的あるいは実質的に同一事業主の場合にのみ通算するという形にすればよいでしょう。
 さらに、安全配慮という意味では、事業主が兼業を把握できるようにしていく必要があります。そのためには、就業規則にその旨の定めがあれば、労働者は兼業を使用者に通知することを法的に義務化する(できれば罰則つきで)ことが考えられます。これは職業選択の自由との関係で難しいのかもしれませんが、せめて就業規則で兼業の申告を定めれば、それに違反した労働者は懲戒処分できる(解雇は過酷としても、減給処分などはできる)くらいにはしてもらわないと、企業としてもなかなか責任が持ちにくいのではないでしょうか。
 安全確保のためなどであればともかく、特段の理由がないのに兼業を禁止するのは時代遅れという批判にはもっともな部分もありますが、実務的には現行法下では解決困難な問題点があることにも目を向けてほしいと思います。

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