|
この金曜日、連合の会長選挙の投票がおこなわれます。選挙になるのは97年以来6年ぶりとのことですが、97年は事務局長の鷲尾悦也氏が大本命で、JR総連が柴田光治氏をたてて一応選挙にはなったものの、事実上の信認投票でした。今回は現職の笹森清氏に、最大単産であるUIゼンセン同盟会長の高木剛氏が挑むという構図ですから、大物同士の一騎打ちで、連合結成後はじめての本格的な選挙ということになります。 もともと、連合の役員選挙というのは「役員推薦委員会」なるもので事前に候補者を一本化するという、自民党も顔負けの密室談合人事がまかり通ってきました。まあ、これは組織の結束が強く求められる組合運動において、選挙で決着をつけることで団結が崩れることを懸念するゆえのしくみと考えることもできるでしょう。また、労組の場合は運動方針なども基本的にボトムアップでつくり上げることを建前としているだけに、役員も政策よりは指導力重視で選ばれることが合理的で、したがって選挙より話し合いの方がなじむ、という考え方もありうるでしょう。 要するに、選挙か話し合いかというのは、オープンかクローズドかという問題もさることながら、政策か人物か、何によってリーダーを選ぶのかという理念の問題でもあるということになります。実際、今回も高木氏は「公の場で政策論争をしたい」と開かれた議論を提唱しています。過去の経緯を見ても、前回選挙が行なわれた97年には、当初は大物活動家で金属労協会長(当時)の得本輝人氏が鷲尾氏に対抗して出馬に意欲を見せましたが、その理由も「組合運動のあり方をオープンに議論する場があってしかるべきだ」というものでした(このときは、結局得本氏が意見書を提出、そのいくつかが運動方針に取り入れられるなどしたということで得本氏が辞退するという話し合い決着となり、その後柴田氏が立候補して鷲尾氏との選挙となりました)。 さて、それでは高木氏のいう「公の場で政策論争」というのがどのように行なわれているかですが、まずは笹森氏と高木氏の訴える政策を見てみたいと思います。連合のホームページには、会長選にのぞむにあたっての両候補の「主張」が掲載されています。一種の選挙公報というところでしょう。 これをみると、笹森氏はまず会長2年間の実績を訴えたうえで、雇用問題を最重視し、それに特化するという方針を掲げています。それに続けて、12項目の「重要課題」の概要が書かれています。 これに対し、高木氏はまず組織率の低下による活動の停滞に強い懸念を表明します。そして、UIゼンセン同盟のホームページで詳細な訴えを読んでほしいと希望します。その「詳細な訴え」では、「5つの最重点課題」と「18のチャレンジ」が掲げられており、連合のホームページでは、そのなかから「5つの最重点課題」に「18のチャレンジ」のなかの「連合の運営改革」を加えた6つの政策を打ち出しています。現職に対する直接的な批判がないのは、物足りないといえば物足りないのですが、まあ大人の対応というべきなのでしょう。 そこで、両者が掲げた具体的な政策を対比して、その違いを考えてみたいのですが・・・実は、ほとんど違わないのです。まず、数が少ない方の高木氏があげた6点の課題を列挙してみます。 1.組織率低下ストップ運動 2.失業の拡大防止と新たな雇用の場の確保 3.中小企業における労働運動強化 4.非典型労働者をめぐる課題への挑戦 5.年金と労働基本権問題が焦眉の政策課題 6.連合の運営改革 というものです。 これに対して、笹森氏のあげた12の重要課題を見ると、 【雇用のために―労使協議の強化と社会的合意の形成】 【雇用と労働の中期ビジョン】 【組織拡大―予算と人員】 【中小労働運動の強化】 【広がる非典型労働―均等待遇を実現】 【春季生活闘争の改革】 【労働運動の中期路線】 【企業別組合からの脱却】 【政策・制度―結果を出す運動】 【社会保障の充実―年金制度改革】 【公務員制度改革と労働基本権】 【政治への対応】 となっています。高木氏の1.から4.までは笹森氏の12の課題の中にそのまま入っていますし、高木氏の5.も笹森氏の12のうちの2つを合わせたものです。違っているのは唯一「連合の運営改革」ですが、この中身は「労働組合主義の原則に則り、公正・透明なプロセスによる意思決定によって、主体性を堅持する」「対外的にも、情報の開示と説明責任を果た」す、といったもので、これは現執行部としてはすでにそのようにやっていると言わざるを得ないことですから、笹森氏の主張に出てこないのは当然です。 笹森氏の残りの主張についても、高木氏の「5つの最重点課題」と「18のチャレンジ」を読むと、濃淡の違いこそあれ(たとえば、高木氏は春季労使交渉改革に対してはほとんど関心を示していない)ほぼ同様であり、明らかな対立点は見あたりません。せいぜい、「雇用最重視」と「組織化第一」という優先順位の違いというレベルの差しかないようです。 実際問題、「公の場」での政策論争ということでは、9月13日には日本労働ペンクラブの主催で笹森氏と高木氏の公開討論会が行なわれましたが、そのもようを報道した産経、日経、毎日の新聞記事を見ると、3紙とも、政治路線について笹森氏が自民党との連携も視野においたのに対し、高木氏がそれを批判したことを報じており、どうやらここが唯一の目立った相違点だったようです。あとは「両氏とも04年の年金改正を最大の政策課題とし、消費税の一部を福祉目的税化して給付財源に充てる考えを示した。」と毎日新聞が報じているように、ここでも政策の違いはほとんど際立たなかったようです。どうも、政策論争で選挙をやろう、という候補者(特に高木氏)の意図とはうらはらに、いまひとつ政策的な争点、対立軸は明らかでなく、そのせいかどうか、議論も盛り上がらず、世間の注目も今ひとつのように思われます。 もっとも、この公開討論会は、インターネットなどを探すかぎりでは詳細な情報がないので、本当に違いが少なかったかどうかは、実はわかりません。このあたりに、基本的な問題点があるように思われます。実際、連合のホームページの「連合TODAY」にも「Weeklyれんごう」にもこの討論会のことはひとことも触れられていません。まあ、連合主催ではないから、といわれればそのとおりかもしれませんが、連合内部での争いをあまり大っぴらにしたくないという意識もあるのではないでしょうか。そう考えれば、連合のホームページに掲載された両候補の政策に大差がないのも、争点を目立たせたくないという連合の意図によるのではないかというひねった見方、勘ぐりもしたくなります。 まあ、本当に政策に違いがないのが実情なのかもしれません。それでも、今回の選挙の眼目は結果として「公の場で政策論争」というところになったわけですから、違いがないにしてももうすこし積極的に情報を発信してもいいのではないでしょうか。こうした公開討論会が開かれたこと自体、連合としてはかなり画期的なことであり、高く評価できるものでしょう。会長選挙というのは世間の注目を集めるという意味で絶好の機会なのですから、もっと積極的に利用してもいいのではないかと思います。 |