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さる2月10日、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案」が国会に提出されました。老齢年金の支給開始年齢引き上げのスケジュールが進行するなか、60歳台前半の雇用拡大は重要な政策課題であり、労使が真剣に取り組むべき課題であることには大方に異論はないでしょうが、しかし今回の法案は内容や検討経過に大きな問題を残すものだったと思われます。 これまでの経過を簡単に振り返りますと、昨年夏に厚生労働省の「今後の高齢者雇用対策に関する研究会」が、年金支給開始年齢の引き上げにあわせて、企業の定年年齢を段階的に引き上げる提言をまとめたのがスタートといえましょう。厚生労働省はこれを受けて労働政策審議会で法案化の作業に入り、秋には坂口厚労相がこの国会で成立させる意向を表明しました。これに対し経済3団体はじめ経済界が一斉に反発、厚生労働省は年末にかけて「定年延長」から「希望者全員の継続雇用制度導入」、さらには「労使協定によれば希望者全員を要しない」、そして「一定期間、労使協議が不調であれば就業規則の規定でよい」と次々と譲歩しました。さらに施行時期も1年先送りするなどの譲歩も行いましたが、「希望者全員」と「老齢基礎年金の支給開始年齢にあわせて」についてはついに譲らず、結局今回の内容となりました。 つぎに法案の内容も簡単に確認しますと、基本的には企業に「定年制の廃止、老齢基礎年金の支給開始年齢にあわせた65歳への段階的な定年延長、または希望者全員を対象とした、同様に段階的に65歳まで継続雇用する制度の導入」を求めるものとなっています。そして、この「希望者全員の継続雇用制度」については、対象となる高年齢者に関する基準を労使協定により定めたときは、希望者全員を対象としない制度も可能とされ、さらに、施行より政令で定める日までの間(当面大企業は3年間、中小企業は5年間)は、労使協定ではなく就業規則等に当該基準を定めることを可能とすることとされました。加えて、この期限が終了する際には、「中小企業における高年齢者の雇用に関する状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、当該政令について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること」とされており、景気の状況、とくに中小企業の経営状況によっては就業規則で可とする期間をさらに延長する含みも持たせています(政令ですから国会審議は不要で、審議会が検討の舞台となることになります)。また、法案には入っていませんが、審議会の建議には制度の変更・導入にあたって60歳以前までも含めた労働条件の見直しに言及されていることも注目すべきでしょう。 こうしてみると、「希望者全員」とはいっても例外はかなり広く認められており、また、当面継続雇用に際しての労働条件などに関する制約も設けられていません。すでに多くの企業が60歳以降の雇用延長制度を導入しており、希望者全員でないものまで含めれば約7割の企業が65歳まで延長できる制度を持っていることや、いずれ経済が復調すれば、今後趨勢的に労働力人口が減少するなかで高齢者雇用の必要性が高まることなどを考えれば、実用的には経営サイドとしてもほぼ現状追認、まずまず譲歩できる線なのでしょう。であれば、こうまでして「希望者全員」「老齢基礎年金に合わせて」にこだわって無理に問題の多い法律をつくる必要があったのかどうか、素朴に疑問に思われます。 とりわけ大きな問題点としてあげられるのが、「継続雇用の法制化」という、きわめて画一的かつ硬直的な方法がとられたことです。もちろん、働く意欲と能力がある人が年齢にかかわらず働ける、という理想は立派なものだろうと思います。しかし、働く意欲がもっぱら生活費の稼得のためであるならば、そのための異なる選択肢、たとえばつなぎ年金の支給とか、60歳以前の段階での労使マッチングによる財形などといった方法を否定すべきではありません。働く人としても、ただおカネのために、できれば働かずにすませたいような仕事を「希望する」よりは、つなぎ年金を受けることを選択したい人もいるでしょう。現在すでに個別労使のなかにはこうした知恵を出し合っているケースもあることを思うと、一応労使協定によって除外される余地は設けられたとはいえ、一律の法制化はいかにも愚策といわざるを得ません。 もうひとつ大きな問題点をあげると、とりわけ現在のように雇用失業情勢、とくに若年のそれが厳しいなかで、高齢者、それも定年まで雇用された高齢者だけをここまで優遇することが正当化されるのか、という点です。法案が成立した場合、多くの企業は再雇用制度の導入を選択するものと思われますが、これは少なくとも外形的にはいったん定年退職して、あらためて就職するという形をとります。ということは、対象者は「希望すれば希望する企業に」就職する権利を法で保障されることになります。これは、希望すれども就職できない他の多くの失業者に対して、あまりに均衡を失していないでしょうか。 さて、ほかにも内容的な問題点はいくつかありますが、この法案の検討経過はそれ以上に問題ではないかと思います。 この問題が企業経営にかなり大きな影響を与えることはいうまでもありません。さらに、労働政策審議会(の分科会や部会)での議論をみると、経営サイドのみならず、労働サイドも必ずしも全面賛成ではなかったという印象があります。これは考えてみれば当然のことで、現実に個別企業の労組をみれば、経営不振のなかで合理化、スリム化に労使で懸命に取り組んでいるというケースが多々あるわけです。そうしたなかには、定年延長や希望者全員の継続雇用が義務化されれば経営改善に大きな影響が危惧されるケースも多いでしょう。それでなくても、継続雇用は当然その分新入社員採用を排除するわけで、組織の活力が殺がれる懸念もあります。そう考えると、労組としても全面賛成できないのは無理もないことではないかと思います(さらに、今回の枠組みだと、希望者全員の適用除外に労組として同意することを求められる場面も出てくるわけで、これまた労組としてはつらい試練となるに違いありません)。 こうした難しい問題、慎重な検討を要する問題であるにもかかわらず、研究会報告を夏に出し、翌年初には結論を出すというあわただしい進め方は、それだけでもいかにも拙速であるように思われます。しかも、もともとこの問題に関しては、1999年の「雇用対策基本計画(第9次)」において、「向こう10年程度の間においては、65歳定年制の普及を目指しつつも、少なくとも、意欲と能力のある高齢者が再雇用又は他企業への再就職などを含め何らかの形で65歳まで働き続けることができることを確保していくこととする。」とされていました。2009年までに、「他企業への再就職などを含めて」という幅広い形で進めていくとされていたのです。「基本計画」でそのくらいの時間をかけて進めるべきものだとされていたものを、2003年にバタバタと検討し2004年初めに決めるのは明らかに不自然ではないでしょうか。しかも、この時期には、これ以上に世間の耳目を集めた年金改革の問題も並行して議論されており、この問題はそれに隠れ、埋もれるような形で、いわば抜き打ち的に決まってしまった感もあるのです。その背景には、衆議院総選挙をはじめとする政治日程や、坂口厚労相の発言の内容やタイミングなどを考えると、なんらかの政治的な意図があったことが容易に推測されます。 まあ、政策というのはそういうものだということかもしれません。とはいえ、目先の政治的な思惑で政策を決定した結果、後々に禍根を残したという例はおそらく枚挙にいとまがないのではないでしょうか。今回またそれが繰り返されたのだとすれば、それは決して歓迎できることではないでしょう。 今回の検討にあたっては、65歳定年延長を求める報告を出した研究会の座長が、そのまま労働政策審議会の実質的な検討が行われる部会の座長も勤めました。これもよくあることなのでしょうし、研究会の結論に責任を持つ?というのもひとつの理屈かもしれません。しかし、いっぽうであらかじめ結論ありきで、労使がどのように議論をしても結局は研究会の結論を通すという意図があるとみられても致し方ないのではないでしょうか。このようなやり方にも若干の疑念を感じざるを得ません。 このように、今回の高齢法改正は大いに疑問が残るものとなっています。とはいえ、いずれにしても今回の法案は労使にそれなりの努力の余地を残すものとはなりました。それぞれの企業労使のおかれた状況をふまえて、いかに最善の進め方を見出すのか、労使の知恵のみせどころになるでしょう。 |