太田市、男性職員の育休義務化へ(16.12.20)



 群馬県太田市では、子どもが生まれた市の男性職員全員に合計6週間の育児休業の取得を義務づける方向で検討に入ったそうです。
 新聞報道などによれば、結婚時などの特別休暇制度の取得理由に追加して有給化し、1ヶ月につき連続1週間、1歳までに計6回の取得を規則で義務化するということのようです。さらに休暇後には「育児研修日記」などの報告書を提出させる予定だとか。同市の清水聖義市長は、慣例にとらわれない大胆な施策で全国的に知られる名物市長ですが、「『育児は女性』との意識を改革するために、大胆な一歩を踏み出したい。制度があっても男性が利用しないのでは意味がなく、太田市から環境を変えていきたい」と話しているそうです。
 まことに思い切った取り組みで、その意気込みは立派なものだと思います。 とはいえ、ちょっと考えただけでも、さまざまな問題点が浮かび上がってくることも事実です。
 まず、この制度は男性に限るということで、女性職員の育児休業は従来のまま無給だということです。新聞報道でも指摘されていましたが、これは制度的には明らかに男性に有利、女性に不利な差別的なものです。これについて市は「男女平等の立場から批判はあるかもしれないが、まずは男性が育児に取り組む環境づくりが必要」と、そこは承知のうえとコメントしています。男性の育児参加、固定的な性役割意識の解消といった実質的な男女平等のためには、一時的な制度的不平等は一種の男性に対するポジティブ・アクションのようなもので、致し方ないということでしょうか。それはそれであり得ないことはない考え方かもしれません。
 次に、6週間もの有給休暇となると、費用面でもかなりのものになるはずで、例年の実績からは30人程度の取得が見込まれるということですから、仮に月給が30万円とすれば6週間で45万円程度、これが30人ですから1,350万円という負担が発生することになります。決して小さな負担とはいえず、少なくとも民間企業ではなかなかできない取り組みでしょう。自治体である以上は、これは住民の税金でまかなわれていると考えるべきでしょうが、はたして住民がそれに見合ったメリットがあると納得してくれるかどうかが問題です。実際、群馬県が県内の各地域別に、住民を対象に実施している「予算編成県民懇談会」が、12月4日に伊勢崎佐波地区で開かれましたが、そこでは太田市のこの施策に対して「住民感情を無視している」「補助金漬けの行政は、選挙を意識しているから」などという批判が出されたそうです。「教育」という位置付けを与えているのは、これを通じて職員がレベルアップすれば市民にもメリットがあるという意味もあるでしょうし、清水市長は「子育てや教育環境の整備は少子化対策だけではなく、長い目で見れば地域の力の向上につながる」と述べているそうですが、必ずしも納得は得られていないようです。
 また、この制度で父親を休ませても、それだけでは父親が育児をするとは限らない、という問題があります。毎月1週間、という休み方では、フルタイムで働く母親に代わって父親が育児をする、という姿は求めようもありません。となると、休みはしたものの育児は相変わらず母親まかせで、父親はすこし手伝うだけ、ということにもなりかねません。まあ、レポート提出を求めるのはそうならないための歯止めでしょうし、とにかく育児のために休むということがまずは大事であり、子どもとのふれあいがあるだけでも有意義、という考え方もあるでしょう。
 くわえて、そもそも休みたくない人を無理やりに休ませることが本当にいいのか、という問題もあります。まあ、形式的には、業務命令で研修をさせるのだ、ということでいいのでしょう。とはいえ、規則だから仕方なく、いやいや休むというのでは、育児参加まではともかくとしても、少子化対策としてはどうなのでしょうか。育休というのはやはり「育児のために休みたいから休む」というのが本来のはずで、命令でいやいや休まされるのでは、育児が幸福なものとはなりえず、本質的な部分で問題なのではないでしょうか。下手をすると、休まされるのがいやなばかりに、子どもをつくるのを避けるおそれすらあるのではないか、というのは考えすぎでしょうか。
 このように、問題は多々ある太田市の取り組みですが、それでも私は、直接選挙で選ばれた市長の裁量の範囲にはなんとかギリギリで収まっているのではないかと思います。問題があるからといって何もしないばかりでは、首長としては不作為が過ぎるというものでしょう。太田を父親が育児参加する町にしたい、という理想には、それなりに共感できるものはあります。そのための手段として、まずは形から入るのだ、という考え方もあるでしょう。
 こうした大胆な取り組みには、あれこれ文句をつけて妨害するのではなく、一種の社会実験として大目にみるという寛大さも必要なのではないでしょうか。なにも、すぐに全国的にやるという話でもありませんし、構造改革特区と同じようなものだと思えばいいのだと思います(太田市は特区にも熱心で、市民の支持もあるようです)。大切なことは、こうした実験の結果がありのままに広く公表され、多くの人がそれを見てなにかを学ぶ、ということではないでしょうか。

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