「男性の育児休業」は5日でOK!?(16.9.2)



 次世代育成支援法により、来年3月までに従業員300人以上の事業主には次世代育成支援の「行動計画」の作成が義務づけられたのは周知のとおりです。関係者によれば、行政が開催する次世代育成支援関係のセミナー類は、ほかのテーマに較べて非常に参加者が多いということです。関係者氏は「きわめて関心が高い」と喜んでいましたが、これは企業が対応に困っていることを示しているとみるべきではないでしょうか。
 企業がなにを困っているかといえば、いちおう行政から計画のモデルなどは示されていますが、さすがに行政が推奨するようなご立派な計画を作れる企業は限られています。となると、どの程度まで計画すればいいのか、それに対して行政がどのような態度に出るのか、が読めないのが最大の悩みでしょう。もちろん、法律では「計画を作った」ということを届け出ればよいとされてはいますが、行政の現場では、そうはいっても計画そのものを「見せろ」と求めらるのではないかとか、「こんな計画では届出を受理できない」などと言われるのではないかとかいった心配はどうしてもつきまといます。さらに、「認定」についても、行政の恣意が入る余地があるのですからなおさらです。
 それでは、行政の指針以外に参考になるものがないかといえば、ありました。厚生労働省がこの4月、他に先駆けて(?)発表した「厚生労働省特定事業主行動計画」がそれです。
 次世代育成支援法は、国および地方公共団体の機関等(特定事業主)に対して、計画期間、達成しようとする目標及び次世代育成支援対策の内容等を定めた行動計画(特定事業主行動計画)の策定と公表を義務づけています。これについては、「社会全体における次世代育成支援対策の牽引役としての積極的な対応が必要」という雇児局長通達が出ていますから、民間に対し率先垂範するという意図があるということでしょう。
 ということは、厚生労働省の行動計画は率先垂範の最たるものでしょうから、民間企業としては大いに範とすべきものであることは言うまでもありません。ということで、この行動計画を見てみましょう。
 分量はかなり多く、さすがの意気込みを示したというところでしょうが、全部はとても紹介できませんので、数値目標のあるものを中心に目立つところを紹介したいと思います。ちなみにこれは平成17年度から5年間の計画で、目標数値は平成21年度のものです。
 まず、「少子化対策プラスワン」が「父親誰もが」と述べている「男性の出産休暇5日間」ですが、これについては「子どもの出生時における父親の5日間以上の連続休暇」を平成21年度までに「取得率50%」となっています。期間が10年間の「プラスワン」が「誰でも」ということですから、その半分の5年間の行動計画では、半分の50%でいいだろう、ということでしょう。ちなみに平成14年度の実績は7.3%ということですから、なかなか意欲的な目標といえそうです。
 次に、「プラスワン」でも話題になった育児休業の取得率については、平成21年度までに「女性92%、男性55%」という目標を掲げています。「プラスワン」の「女性80%、男性10%」に較べて非常に高い数字で、とくに男性の高さは驚異的です。
 ところが、案の定これにはカラクリがありました。まず、女性については、平成14年度ですでに取得率が91.6%ですから、92%というのはコンマ4ポイントの上積みで達成できてしまうのです。民間企業なら「目標」の名に値しないでしょう。
 まあ、これについては、なかには育児休業をとらずに働きたい、という女性も一定数いるでしょうから、あまり100%に近づくのもかえっておかしいと考えるべきかもしれません。また、すでに100%に近いハイレベルなところにきているから、コンマ4ポイントといってもそれほど簡単ではない、ということもあるでしょう。
 それ以上に問題なのは、男性の55%のほうです。なんと、この55%に続けて「(子どもの生まれる前後の連続5日間以上の育児休業的な休暇の取得率を含みます)」という但し書きがあるのです(これは男性だけで、女性にはありません)。
 しかし、この但し書きにある「子どもの生まれる前後の連続5日間以上の育児休業的な休暇」というのは、さっき出てきた男性の出産休暇5日間、「子どもの出生時における父親の5日間以上の連続休暇」となにが違うのでしょうか。お役所の文章で微妙に表現が違うということは、なにかの違い(年次有給休暇の利用が含まれるかどうかとか)があるのでしょうが、それにしてもほとんど同じことでしょう。ということは、「男性の出産休暇5日間」の目標50%を引き算すると、実質的な目標は残りの5%ということになります。なるほど、それでも、10年間の「プラスワン」の目標である10%の半分ですから、計算はあっています。平成14年度の実績は0.6%だったそうですから、厚労省としては非常に意欲的な数字と言いたいくらいかもしれません。
 とはいえ、「連続5日」で育児休業取得と同様にカウントするというのも、いささか違和感なしとはしません。まあ、育児休業を請求して休んだのであれば、1日であっても育児休業だ、というのは一つの理屈ではあるでしょう。しかし、目標を設定して管理する以上は、達成率を上げるために1日だけでもいいから取得しろ、ということにならないよう、それなりに意味のある日数でなければカウントしないというのが常識でしょう。たとえば、育児休業給付については、支給要件のひとつに「各支給単位期間に、育児休業による休業日が20日以上あること。」というものがあります(ひょっとしたら今回の改正法案では変わっているのかもしれませんが)。これは要するに、そのくらい休まなければ育児休業給付を出すに値する育児休業ではない、という行政の見解が表れているわけでしょう。であれば、連続5日でもカウント、というのは少々短すぎないかという気がします。
 そもそも、厚生労働省は、「プラスワン」をはじめとして、あらゆる場面で「男性の出産休暇5日間」と「男性の育児休業」は別物として扱っているように思われます。それを、ここだけいっしょくたにして(一応、「育児休業的な休暇」を「含みます」と、建前は別扱いの表現になっていますが)カウントする、というのは解せない話です。「男性の育児休業」を意欲的に取り上げた以上、自らが達成できないわけにはいかないということで、比較的とりやすそうな「男性の出産休暇5日間」と合算して、達成できるような目標にした、と受け止められても致し方ないのではないでしょうか。
 いずれにしても、厚生労働省がこういう計画を立てている以上、民間企業が同様に「連続5日の休暇も育児休業に含めます」という行動計画を立てても、行政としては異論はさしはさめないだろう、ということがわかったということは、大いに参考になるといえましょう。まあ、連続5日を5%、というのも民間の実態からすればかなり高い目標ではありますが。
 次に、厚生労働省が民間に対して並々ならぬ期待をかけている託児施設についてみてみましょう。行動計画は庁内託児施設について「保育料などの条件によって利用希望者数が大きく異なってくること、5号館の建物について物理的な制約が多いこと、子どもを連れての電車通勤が容易でないことなどから、直ちには結論が出ない状況です。今後、他の府省の動向を見つつ、共同設置の可能性を模索しながら、引き続き検討します。」と書いています。案外?控えめな内容ですが、予算の制約もあり(待機児童が増えつづけているのに、霞ヶ関に託児所を作るとなったら国民の納得は得にくいでしょう)、困難な事情があるだろうことは想像できます。
 とはいえ、これまた、民間企業にしてみれば「資金の余裕がないので、託児所の設置は引き続き検討します」くらいの計画でOKです、ということがはっきりしたわけですから、大いに参考にはなります。厚生労働省が本気で民間に範を垂れたいのであれば、職員の賃金をカットしてでも予算を捻出して、託児所をつくるくらいの計画を立ててもよかったのではないかと思います。
 行動計画には、ほかにも年次有給休暇の取得の促進や、「19日は育児の日」で休暇取得促進とか、「19時(イクジ)に帰ろうマイホーム」で定時退場日の促進といった内容も含まれていますが、省略させていただきます。
 それでも大方の民間企業に較べれば、厚生労働省の次世代育成支援は進んでいることは間違いないと思います。とはいえ、次世代育成支援法の趣旨は目標の達成ではなく計画を作って取り組むことにあるはずですし、厚生労働省としても、率先垂範するなら目標達成にこだわるのではなく、計画づくりにおいて率先垂範し、目標は達成できなくても致し方ない、というのがあるべき姿勢だったのではないでしょうか。まあ、それでも達成できなければなにかと叩かれるでしょうから、苦しい状況には同情を禁じ得ませんが・・・。

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