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このところ、政府の若年雇用問題に対する取り組みが活発化しているようです。この4月14日に厚生労働省が発表した「若年者問題に関する関係府省等の取組・連携の強化について」では、「若者の人間力を高めるための国民会議」の開催や、「フリーター20万人常用雇用化総合プラン」が打ち出されました。前者については5月26日に第1回が開催され、これに先立つ5月9日には後者の一環として「ハローワークによるフリーター常用就職支援事業」の推進も発表されています。 これら一連の施策をみると、「常用雇用化」「常用就職支援」などと、「常用」がキーワードになっているようですが、先日ある気鋭の教育学者のブログで、「ところで、「常用就職」って?/厳密な定義とか、あるんだろうか。」と疑問が呈されているのを発見しました。なるほど、私たちが日頃なにげなく使っている「常用」ということば、定義はあまり知られていないようです。 まずは、一般的な受け止め方をみてみましょう。政権与党たる公明党は、その機関紙である「公明新聞」でこれら政策を自画自賛していますが、その文面をみてみますと(5月19日付公明新聞)、 「厚生労働省は、フリーター対策として「2005年度中に20万人の減少」という明確な数値目標を提示。これを達成する具体策として、フリーター20万人を正社員化する総合プランを発表し、直ちに着手した。」 「厚労省によると、04年度は全国で4万3680人が同制度(トライアル雇用)を利用。試行期間を終了した3万7251人のうち約80%に当たる2万9813人が常用雇用に移行し、正社員となった。」 などと書いてあり、「常用雇用」と「正社員」が併用されながらも、「常用雇用=正社員」という書きぶりになっています。まあ、これは政党の宣伝なので、相当割り引いてみる必要はありそうですが、一応与党たる公明党の意図としてはそうだ、ということでしょうか。 しかし、厚労省の4月14日の発表には、「常用雇用」のみで「正社員」という言葉は出てきません。これが取り上げられた閣議でも、尾辻厚労相は「常用雇用を望む方が常用雇用にならないということは問題なので、常用雇用を増やすための施策である」と説明したとか。これを先行して報じた4月12日付の朝日新聞朝刊では、「05年度中に20万人のフリーターを正社員などの定職に就かせる数値目標を設定」と表現しています。 それでは「常用」雇用とはなんなんだ、ということですが、この「常用」という言葉、労働政策などではごく普通に使われているにもかかわらず、意外にも統一された明確な定義があるというわけでもなさそうなのです。 もちろん、まったく定義がないわけではありません。たとえば、労働関係者には非常に親しみ深い「毎月勤労統計調査」という指定統計があり、「常用雇用指数」などが集計、発表されています。これは調査の「常用労働者」の数値がもとになっており、その定義はこうなっています。 事業所に使用され給与を支払われる労働者(船員法の船員を除く)のうち、 1)期間を定めずに、又は1ヵ月を超える期間を定めて雇われている者 2)日々又は1ヵ月以内の期間を定めて雇われている者のうち、調査期間の前2ヵ月にそれぞれ18日以上雇い入れられた者 のいずれかに該当する者のことをいう。 しかし、これは「フリーター20万人常用雇用化」といった表現とはあまりに違和感がある定義でしょう。これでは、フリーターのけっこうな割合は常用労働者になってしまいそうです。なぜこんなことになってしまうかというと、この場合の「常用」は「企業がどのくらいの人数を常時雇用しているか」という意味あいだからだと思われます。実際、こういう意味で「常用」と言われることはけっこうあります。たとえば、「労働基準法は常用労働者10人以上の事業所に就業規則の作成と届出を義務付けている」という具合です。これは人は入れ替わっていても人数としては常時10人以上、ということですから、有期雇用も短時間労働者(パートタイマー)も含まれます(ちなみに法律の表現は「常時10人以上の労働者を使用する使用者は〜」となっていて、「常用」という語は使われていません)。同様に、障害者の雇用の促進等に関する法律でも、障害者雇用率を「常時雇用する労働者」(ただし、障害者雇用率については障害者もフルタイム雇用されるべきであるとして、パートタイマーが除かれています)の何%、と決めていますが、これも「パートタイマーを除く常用労働者の何%」などといわれることがよくあります。 それでは、「企業が常時何人雇用しているか」ではなく、「働く人がどのように雇用されているか」という意味での定義はないでしょうか。探してみると、厚生労働省職業安定局が作成している「労働市場年報」に「常用労働」の定義があります。それによると、常用労働とは「雇用契約において期間の定めのないか又は4か月以上の雇用期間が定められているもの」となっています。これは要するに、雇用保険の一般被保険者になる人を常用労働としているのだろうと思いますが、これもやはり「フリーター20万人常用雇用化」とはかなりの距離感があります(毎月勤労統計よりは近づいてはいるようですが…)。 もうすこし「それらしい」定義はないのでしょうか。探してみると、雇用保険の給付のなかに「常用就職支度手当」というのがあり、その支給要件のなかに、なにをもってこの手当の給付対象となる「常用就職」と認めるか、という要件があります。具体的にはこういうものです。 ・雇用期間が確実に1年以上であること。 ・雇用保険適用事業所に、雇用されたものであること。 この「常用就職」というのは「ハローワークによるフリーター常用就職支援事業」にそのまま出てくる用語で、定義としてもだいぶ近づいてきたような感じはします。これはアバウトにいえば「それなりの会社でそこそこ安定した職についた」ということなのでしょうが、「雇用期間が確実に1年以上」というのは、長らく有期雇用の上限が原則として1年であったことを考えれば、一応は期間の定めのない雇用を念頭においているのだろうと考えられなくもありません。とはいえ、「契約期間は1年とし、2回更新する」といったものは排除されないでしょうから、必ずしも正社員とイコールになるとはいえません。まあ、この制度は基本的に45歳以上の中高年齢者を対象にしているので、雇用期間についてはこの程度でもいいということだったのでしょうか。 それでは、若い人まで射程に入っている定義を探してみると、労働者派遣法でみつかりました。派遣法では常用雇用労働者のみを派遣する派遣業者を「特定労働者派遣事業」と呼んでいますが、この「常用雇用労働者」の定義はこうしたものです。 1)期間の定めなく雇用されている労働者 2)過去1年を超える期間について、引き続き雇用されている労働者 3)採用時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる労働者 基本的には常用就職支度手当の定義とほぼ同じと考えてよさそうです。この定義では「期間の定めなく雇用されている労働者」が一類型として明記され、それに加えて2つの類型が示されていますから、「期間の定めがない」が正社員の要件であるとすれば、この「常用」は明らかに正社員に限らない概念ということになります。 もちろん、今回の「ハローワークによるフリーター常用就職支援事業」が意図する「常用就職」はまた違う意味でもいいわけで、実際違うのかもしれませんが、それにしても「常用雇用=正社員」というのはかなり危ない理解であり、ミスリーディングな表現といえましょう。 最後に一言付言しておきますと、私は個人的にはフリーターの常用化より、まずはフルタイム化(1日8時間×週5日)することのほうが優先順位が高いのではないかと思っています。パートタイムで1年契約を反復更新していても技能の向上・蓄積の効果は限られてくることが多いでしょう。やはりフルタイムの長期雇用が望ましいわけで、であればまずはある程度短期雇用であってもフルタイムで働き、「毎日時間通りにフルタイム働く」という仕事の基本的な構えを作っていくことのほうがフルタイムの長期雇用につながりやすいのではないかと思うからです。 |