プロ野球のリストラは進んだか(17.4.28)



 この4月25日、労働組合である日本プロ野球選手会は、今シーズンの年俸調査結果を発表しました。調査対象となる支配下選手は752人で、平均年俸は前年比1.6%減の3,743万円と、1980年の調査開始以来初めてのダウンとなったそうです。出場登録選手(開幕一軍選手)の平均も2.6%減の6,770万円で、こちらは2年ぶりの減少ということです。
 新聞各紙では、球団の経営難と昨年の球団再編と関係づけた報道が目立つようですが、選手会の広報(選手会のホームページに掲載されています)は冷静で、「最近では出来高契約を結ぶ選手も増えて来た為、この調査に反映されない年俸もあります。また高額選手の入団、退団がダイレクトに影響する部分もあるため、この調査結果で、全体傾向を論じることはできにくい部分もあります。」と分析しています。
 本当にそうなのでしょうか。高額選手の人数をみると、年俸1億円以上の選手は昨年の74人から今年の66人と大幅に減少しています。もちろん、個別の年俸は公開されていませんから、新聞報道などの「推定年俸」などを参考にするしかありませんが、1億円選手が8人減少したうち、元近鉄の中村選手(推定年俸5億円)、元ダイエーの井口選手(同2億4,000万円)、阪神の藪選手(同1億1,000万円)は大リーグへの移籍、阪神の伊良部選手(同2億6,000万円)、中日の川崎選手(同1億5,000万円)は引退で、日本のプロ野球を去っています(ほかにもいるかもしれません)。あわせて12億6,000万円の年俸が消えた計算です。もちろん、彼らの代わりに新人選手が入ってくるわけですが、新人の年俸はトップクラスで1,500万円というのが相場らしい(今年の新人でも、読売の野間口選手、横浜の那須野選手、阪神の能見選手などが1,500万円のようです)ので、その5倍は7,500万円で、差し引きすれば11億8,500万円の減少という理屈です。これを選手数752人で割り算すると、平均を約156万円引き下げているという計算になります。現実には、年俸総額は約4億3,000万円の減少(ちなみに選手数は昨年は752人でしたので1人増えています)、平均は62万円の減少にとどまっています。ということは、日本球界を去った5人の高額選手を除外して考えれば、厳密な意味ではともかくとしても、残りの選手たちはいわば「定昇を確保し、ベアもあった」という状況でしょう。
 選手会の松原事務局長は、「昨年の再編問題もあり、我々も過度な年俸高騰を望んでいる訳ではない。『年俸より野球界の発展』と話していた選手もおり、減額という結果になったのではないか」「契約更改の席上で年俸より球界改革を重点に置いて話をした選手が多かったという側面もある」などとこの結果を分析しているようです。そうした側面もあったのでしょうが、トータルでみるかぎりは、残留した選手は年俸で割を喰ってはいないということになり、そういう意味ではいささかこのコメントは怪しいという感じです。むしろ、選手会の資料をみると、一昨年の平成15年は1億円以上の高額選手は62人、その前の平成14年、13年はともに63人ですから、実は昨年の74人というのが異常に多かったのであり、今年はむしろ正常化したという見方も可能でしょう。これは、年俸高騰を懸念するオーナーサイドの意向には一応添っているといえそうですが、現実には「慰留にもかかわらず大リーグ移籍」という形で年俸総額が減少している部分も大きいわけですから、多分に意図せざる結果オーライという印象があります。
 さて、もちろんこれはトータルの話であって、個別にみれば昨年の球界再編の影響らしきものも見受けられます。たとえば、統合球団のオリックスは、平均2,385万円と12球団最下位で、しかも昨年からの変動幅もマイナス526万円と、12球団で最大の下落となっています。まあ、経営再建のために統合したわけですから当然だ、ということかもしれません。しかし、昨秋にはオリックスは大リーグに移籍した中村選手を「契約条件は引き継ぐ」ということで慰留している、と報道されていました。彼が残留していれば、平均の引き上げ効果は実に700万円以上(!)で、変動幅も200万円近いプラスになっていたはずなので、はたしてどこまでの決意で年俸の縮小をしたのかはいささか疑問です。
 いっぽうで、新球団の楽天のほうは、平均2,724万円でオリックスを上回っています。楽天とオリックスを比較すると、楽天は36歳以上の高齢選手が12人と他球団に較べて圧倒的に多い(他球団は1〜7人)のに対してオリックスは3人、その逆に29歳以下の選手は楽天が34人なのに対してオリックスは47人とかなり多くなっています。これは、楽天が戦力を揃えるために他球団が戦力外とした高齢選手を補強した結果でしょうが、確認はできていないものの、球団統合・新球団発足にともなうリエントリー・ドラフトの際に、オリックスがコスト・パフォーマンスの悪い高齢選手を重点的に楽天に移した結果でもあるかもしれません。ただ、オリックスの特徴として、支配下選手が69人と多い(他球団は61人〜64人)ので、統合にあたって若手を救済したという側面もありそうです。
 その他の球団で変動幅が大きいのは、まず減少のほうでは阪神のマイナス365万円、広島のマイナス247万円、読売のマイナス148万円といったところです。阪神については伊良部選手と藪選手が抜けたためでしょうが、広島と読売は選手の動きには大きなものはありません。もっとも、読売は清原選手、桑田選手、江藤選手といった高額選手が数千万円オーダーの年俸ダウンと報じられていましたから、それだけで十分説明できそうです。よくわからないのは広島で、ここだけは本当に経営事情で全般的に年俸を抑制したのかもしれません。
 増加幅が大きいのは西武のプラス385万円、中日の215万円といったところで、さすがに優勝チームという感じです。両球団とも特に大物の加入はありませんので、やはり成績に応じて全体が上がったということでしょうか。
 年俸への反映はともかく、経営難も球界再編も事実だったわけですから、球団経営、プロ野球の運営を考えるという意味においても、選手会が労働組合らしい機能を果たし、こうした労働条件に関するデータを調査、公表していくことは有意義だろうと思います。

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